「差別は観念的に、友情は具体的に」マッドバウンド 哀しき友情 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
差別は観念的に、友情は具体的に
ディー・リース監督は、これからの活躍に期待している作家の1人。舞台は40年代のミシシッピ州。黒人差別が色濃く残る時代の白人の兄弟一家と黒人一家の交流と諍いを描いている。白人兄弟の兄は粗野な性格で父から受け継いだ差別意識を引きずっている。弟の方は、兄ほど差別的ではなく、頭もよかった。弟は戦場で黒人兵に助けられたこともあり、黒人一家の元兵士と友情を築いていく。ともに欧州戦線で戦い、黒人の青年は現地での歓迎ムードが忘れられない。一方、故郷のミシシッピでは差別される。PTSDを発症した白人兄弟の弟は、その苦しみを周囲に理解されず、同じ戦場で戦った黒人青年だけがその苦しみを理解してくれた。
白人兄弟の兄の妻は、子どもが病気で苦しんでいた時に黒人一家の妻に助けてもらう。そんなこんなで家族のメンバーの一部は寄り添うが、地域の差別感情によって引き裂かれていく。
差別は観念的に生まれ、友情は具体的な体験の共有から生まれる。アメリカの黒人差別を背景にした作品だが、全ての人間関係に通じるものを描いている。
コメントする