「緊張と笑いの渾然一体」ロープ 戦場の生命線 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
緊張と笑いの渾然一体
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面白いと言っていいのかわからないほどシリアスで皮肉が効いていて、誰もが命の危険にさらされる紛争地帯の恐ろしさを描いたこのマイナー作品は本当に面白かった。
そして、これまた不謹慎に聞こえるかもしれないが、笑えた。笑える理由の一番は、ティム・ロビンス演じるビーのジョークによるところが大きいけれど、これだって国境なき水と衛生管理団に所属する彼なりの命の危機に対する防衛のための戦い方なのだ。
だから、笑えるんだけど、笑えるような状況にないという、なんとも混沌とした不思議さがある。
つまり、全然笑えない面白くもない状況なのに、面白くて笑えるエンターテイメント性を持ち合わせた、危険と笑いが表裏一体となった戦争関連映画の傑作といえる。
久々に暴力的ではないベニチオ・デル・トロを筆頭に国境なき水と衛生管理団のメンバーは多くの危険と不条理の中で、ロープを探すだけのために、くじけずひたむきに努力したが目的を達成することはできなかった。しかし不満を口にするものはいない。
どうすることもできない不条理を受け入れるしかない彼らの姿に切ない気持ちになるが、ラストシーンで、新たな仕事に対するビーの軽口は降りだした雨とともにスベったジョークとなり笑いを誘い、その後に、バスに乗る捕虜らしき男たちの一団が映り、井戸の水は溢れだし中の死体は引き上げられる。こうして衛生管理団の最悪な1日は、その裏で完璧な1日になった。
最後まで気のきいた緻密な不条理さがニクい。
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