「理不尽な世間と戦う人の物語」ナチュラルウーマン とみしゅうさんの映画レビュー(感想・評価)
理不尽な世間と戦う人の物語
トランスジェンダーが主演の映画を劇場で観るのは、たぶん本作が初めて。
現代が舞台だと思われますが、彼の地ではトランスジェンダーは批判の目に晒されているようだ。
主人公のマリーナは、パートナーであるオルランドと楽しい一夜を過ごすけれども、オルランドは急病で亡くなってしまう。
オルランドのアパートで共同生活を送っているものの、法的には夫婦や家族の関係ではない。
ましてや、トランスジェンダーの社会的地位は低い。
オルランドの弟に電話で連絡はしたものの、マリーナはそのまま姿を隠そうとする。
そのことが警察に咎められ、容疑者として取り調べや検査を受ける羽目になってしまう。
検査官の前で裸体を晒さなければならなかったマリーナ。さぞ屈辱的だったろう。
2人の思い出の場所だったアパートも、遺族からは早急に出ていくよう求められる。
オルランドの弟であるガボ以外は、マリーナに対して冷たい態度をとる。
「夫(父)の浮気相手」としてではなく、「受け入れがたいセクシャリティの持ち主」への理不尽な嫌悪感が強烈に感じられる。
中盤、オルランドの親族がマリーナを拉致し、車内でマリーナの顔をビニールテープでぐるぐる巻きにする。
あまりの酷さに、観ていて涙が出てきた。
自分とは異なるセクシャリティというだけで、なぜこんな真似ができるのか。
子どもの「いじめ」と全く同じ構造ではないか。
恥を知れと言いたい。
マリーナは、オルランドとの思い出の品をことごとく奪われていく。
オルランドが残したサウナのロッカーの鍵も、開いてみたら中には何もなかった。
2人で約束した旅行のチケットが入っているのかと思っていたけれど、それすらも形としては残らない。
マリーナは、オルランドの飼い犬を奪い返すために、遺族たちと対峙する。
マリーナは何度も傷つき、傷つけられる。
しかしマリーナは、それでも何度でも立ち上がる。
パンチングマシンで、シャドーボクシングで、マリーナは何度も拳を打ち付ける。
理不尽な攻撃と戦うために、マリーナは戦う。
ストーリーとしては、正直新鮮な展開はない。
でも、マリーナが自分らしく生きるために、時には傷つき、自暴自棄に陥りそうになりながらも、必死に前を向いて進む姿には感動を覚えた。
セクシャリティに対する「他者からのラベリング」が、いつか必要なくなる世界になればいいなと思う。
私のセクシャリティは私が決める。それでいいのだ。