「社会は自分を映す鏡」ナチュラルウーマン よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
社会は自分を映す鏡
LGBTというテーマが映画で頻繁に扱われるようになって久しいが、ここ数年はさらにその傾向に拍車がかかっているかのように感じる。少々食傷気味ではあるが、いわゆるストレートな人々を通して描くものには限界を感じている映画製作者たちの事情も伺える。
つまり、映画を量産するような経済的に豊かな国々においては、人々の生活は満たされきっており、観客や映画祭の審査員たちの心をつかむような物語や世界の切り取り方は難しい。
もちろん、政治の世界だけでなく、教育や職場でもLGBTへの偏見や差別をなくそうという機運は世界的に高まっており、これが現在最も人間社会を語るうえで外せないテーマであることは間違いない。しかしこのこととて、物質的に何の不自由もない世界であるからこそ議論される問題なのではないだろうか。
この作品もそんなLGBT映画である。原題の直訳は「素敵な一人の女性」。このような素朴な自意識を持つに至るまでの苦悩が描かれる。
人間は自己の有様を、他人の目を通じてしか意識することができない。とは、社会学の本に書いてあったこと。
差別や偏見に苦しむとは、まさにこのことであることをこの映画は語っている。しかも、鏡という映画ではとてもオーソドックスな道具を使用して表現しているのだ。
自分を映し出す鏡面の状態によって、そこに映る自分の姿は変容する。業者が運ぶ鏡がゆらゆらとゆがむことで、鏡の中の自分が現実とは似つかない姿になるのを見つめるシーンはその象徴である。
そして、膝を抱えてベッドに座るラスト近く。マリーナは股間に置いた鏡に映る自分の顔を見つめる。鏡の下に隠れたものが何であろうと、自分は自分でしかない。
「オンブラマイフ」の歌詞の意味を知り、その言葉を噛みしめるようにこの歌を聴いた。