「映画を止めるな!」カメラを止めるな! inosan009さんの映画レビュー(感想・評価)
映画を止めるな!
僅か2館で始った本作。新宿では初日以来連日満席が続いたという。僅か84席のミニシアターでとはいえこれはすごい。かくいう筆者も知らずに行って一度締め出し食ったのだったが、その後拡大公開が広がり、遂に大メジャー日比谷のシネコンまでもが上映することになった。
まったくのマイナー作品である。監督も出演者もまったく無名。高校の映画サークルの文化祭制作といえばだいたいゾンビ映画と相場が決まっているのと同じ程度の自主映画、よく言えばインディーズ。そんな小品が何でこんな騒ぎになっているのか。これはこの目で確かめねばなるまい。
なるほどこれは面白い。いきなり始まる37分ノーカット。廃墟となった山奥の工場跡、ゾンビ映画の撮影現場。そこに本物のゾンビが出現して修羅場と化すその一部始終がものすごい勢いで展開するわけだが、映画の規模こそ違え、昨年の韓国製ゾンビ映画の大傑作『新感染』にも迫る勢いなのである。これだけでも結構面白いのだが、このあと映画は思いもよらない方向へと進んでいく。 『ワンカット・オブ・ザ・デッド』なるタイトルのその映画のメーキングを、そっくりそのまま映画にしてしまうという前代未聞のアイデアである。そこにあるのは、ワンカットでやらなければならないからこそのてんやわんやの撮影風景。うっかり落としたカメラの映像まで止まらない。それこそ修羅場。もう腹を抱えて笑い転げるほど面白い。
これを「映画の発明」とまで言った人もいる。その着想がツボに嵌まりに嵌まって、あれよあれよの96分。観終わっての感想は、今見ていたのはいったい何だったのかとキツネにつままれたような心地よさが残る。メジャーでは絶対にできない、破れかぶれの映画作り。映画の革命だとも言いたい。
劇中映画のラストシーンは、手持ちカメラのクレーンアップによる俯瞰撮影である。こんな小規模作品でいったいどうやって撮ったのかとやや違和感を覚えるが、最後のその種明かしには感動さえしてしまう。映画マニアによる映画大好き人間の映画。カメラを絶対に止めないというその覚悟。ここには「映画を止めない」という映画人間の映画への愛と熱気が溢れている。だから映画は面白い。