「ワンカット撮影に必然性を感じられるなら…。」カメラを止めるな! Fate number.9さんの映画レビュー(感想・評価)
ワンカット撮影に必然性を感じられるなら…。
他の人の指摘にもありますが、この作品には評価基準が大きくふたつあると思います。ひとつは、学生時代、文化祭や体育祭などを一生懸命やった人が「仲間と何かを成し遂げる事」に郷愁の念をもって共感できるか否かという視点での評価。もうひとつは、映画の撮影現場に興味があって、スタッフの仕事や監督と俳優のやり取りなどの「舞台裏」が気になるか否かという視点。逆に言えば、よくあるDVD特典にあるような「メイキング映像」を見るとシラけるような人には相性が悪い作品かも知れません。私はどちらかと言うとそのタイプ。
また、今作の最大の「売り」でもある、「前半をワンカットで撮影している」というのは素直にスゴいと感心しましたが、ワンカット撮影"それ自体"に何か特別な意味や必然性がある訳ではありません。別に無理してワンカット撮影しなくても後半の「メイキング演出」は可能ですし、「後半の舞台裏での事情」が判明しても、「あのシーンの裏側ではあんなコトになってたのね」とか、「だから妙に間延びしてたのか」と分かるだけです。つまりメタミステリー小説のように「撮影者と視聴者(読者)が同一視点だからこそ奏功した謎解き」というモノではないので、舞台裏の事情が分かったところで「…だから何なの?」という感想になりがちなのだと思います。少なくとも私は「撮影者サイドの自己満足」以上の必然性は感じられませんでした。
「映画撮影時の苦労や楽しさ」にフォーカスしたとしても、一歩間違えたらふざけていると取られても仕方のない、コメディ色の強い撮影シーンの描き方には感情移入できないという人もいると思います。それは単に撮影時の"ドタバタの面白さ"以上のものではなく、そこに考えさせられるような深いテーマの提示や人間ドラマが描かれている訳ではありません。
また如何せん、その本編を彩るはずのゾンビ映画そのものがまったく面白くないのも個人的に大きなマイナス点。「ゾンビ映画なんて所詮B級ホラーでしょ」という低予算を言い訳にしているような安直な内容にゾンビ映画に対するリスペクトを感じないし、そもそも"ゾンビ"が題材である必然性も無い。せめてゾンビ映画としての作りがしっかりとしたものだったら、後半の舞台裏の苦労などにも説得力や納得感があったかも知れません。この「自主映画っぽいチープさ」こそが感情移入のための肝だというのも分からないではないですが…。
まあ、賛否両論あって当然の内容なのは間違いないと思いますが、公開当時からあった「この映画の良さを分かっているオレ様カッコいい」的な空気感のせいで過剰評価され過ぎているように感じますので、平均を取って評価は★3つという事で。