「見下して見始めたことを反省」カメラを止めるな! 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
見下して見始めたことを反省
事務所意向なヒロイン、理屈っぽいイケメン、内向的なメガネ、神経質な下痢症、酒に目がないベテラン、腰痛持ちのカメラマン。
リハーサルからデキてしまった二人が事故で本番をポシャり、役に入り込んだら周りが見えなくなる妻と監督が監督役として加わります。
このバラバラ感ともやもや感で、先が見えぬまま、映画中映画ONE CUT OF THE DEADの放映は始まるのですが、読み合わせやリハのときから出演者たちに散々振り回されてきた監督(兼監督役)が、うっぷんを晴らすような粗暴さを見せる辺りから、にわかに映画としての躍動が見えてくるのです。
私はこういう種類のふつふつした興奮を、日本映画で感じたことがありませんでした。
伏線である目薬を消化し、ポン抜けを消化し、カメラマン助手の撮影願望を消化し、こだわりを持ち込んで何度も撮影現場から干されてきた娘の夢を消化し、最終的に、バラバラだった人々がひとつにまとまるのが、この映画の最大の見せどころだと思います。
破綻しまくっても最後には丸く収まるという意味で、三谷幸喜を思わせましたが、人間ピラミッドという形をともなっていたことと、ほっこりした家族の絆へ結論づけてしまう鮮やかさで、大家をも凌駕していると思います。
さらに、それを複層のPOV(日暮隆之役濱津隆之は厳密に言えば監督兼監督役/役なので)とゾンビを用い、かつ低予算で描いていることが、この映画の凄みだと思うのです。
なんかぱっとしない子だなあと思っていた真魚が、きらきら輝くのもマジカルでした。
この映画の製作者や出演俳優たちを、あちこちで見るようになりました。
一本の映画をきっかけに、仕事が入るようになったわけです。
おおげさかもしれませんが、映画製作(あるいは他の何か)にかけるアイデアや情熱というものが、現実のものになるということを、この映画は教えてくれていると思うのです。