「二度、同じ傑作は生まれないだろう小さな奇跡」カメラを止めるな! beshさんの映画レビュー(感想・評価)
二度、同じ傑作は生まれないだろう小さな奇跡
情報を完全にシャットダウンして観て本当に良かった。誰もが楽しめる娯楽作でありながら、仲間と一緒に作品づくりをしたことがある全ての人に爽やかな感動を与えてくれる名作。ビジネス的な後先を考えずに関係者みんなが純粋に作品づくりに没頭するインディペンデント映画として、この脚本はハマり過ぎ。これは狙ってできるものでは無いだろう。上田監督の、過去のショートムービー作品では、メタフィクション的な"ものづくり人あるある"をストーリーの根っこに据えている。本作はそうしたこれまでの貯金と、ワークショップでゼロから手づくりで制作するプロセスとの絶妙な出会いによって生まれた傑作なのだと思う。非常によく出来た"ものづくりあるある"とワークショップの相性が小さな奇跡を生んだ。それにしても、前半のワンカットのゾンビものが絶妙な出来なことに感服する。話題作のインディペンデント映画という触れ込みで観て反転させるのに非常に丁度いい。ワンカットでなかなかに頑張ってるからこそ、話題先行の出来の悪い映画として、イライラしながら疑いもなく観てしまった。すっかり騙されるので、大仕掛けを挟んでの後半がめちゃ爽快。さらに、キャストは誰ひとりと計算できる名優はいないが、前半の仕掛けが、敢えて下手くそに演技してるので、後半は、その落差で違和感なく観れてしまうというプラス効果もあるのではないか。これまでの上田監督の映画に対する姿勢に、映画の女神が微笑んだ二度は撮れない傑作だろう。日本映画の作り方、興行、プロモーション、全てを考え直させるエポックメイキングな重要作品であることは間違いないが、再現性をどこに求めるのか、映画ビジネスのモデルケースとしての分解が非常に悩ましい作品でもある。