「人生の大一番を制すには」カメラを止めるな! kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
人生の大一番を制すには
上映館数が爆発的に増えた話題作だけあり、心の底から笑って泣いて感動できる、素晴らしい映画でした。
ちなみに、本感想文は完全ネタバレ仕様となりますのであしからず。
最初のノンストップゾンビ映画は、確かに粗っぽいながらも、ワンカットの緊張感が伝わり、普通に面白かったです。もちろん、いろいろ気になるところはありましたが、お腹の弱いスキンヘッドのあいつの存在と、嫁さんが一瞬起き上がる瞬間以外はさほど違和感は覚えず。飛び散った血糊がカメラに着いて、それを移動中に拭うシーンは緊迫感ありまくり。手に汗握って観ました。
そしてその後の制作シーンにニンマリ。特に日暮監督の人柄がよくて、苦労を背負う中間管理職の悲哀がビンビン伝わります。早い・安い・質はそこそこというキャッチコピーは、いかにも中小の下請け感が強く、実に身近(笑)
あと、日暮家がいい感じですね。ひどい葛藤とかがなく、健康的なのが清々しい。父娘の深い断絶があったりするのでは…なんて危惧したけどそんなことはなかった。そして父娘の愛情がラストの肩車につながるわけですから、まー最高ですよ!
主演2人の薄っぺらさも爆笑でした。しかし、そんな2人もこのハードすぎる撮影にプロとして取り組めたため、トラブルを乗り越えて成長できました。その姿にも思わず涙が。
数々の小ネタ、完璧な伏線回収と見所満載の本作。しかし一番の見所は、監督を筆頭にクルーが目標に向かって決して諦めずに進む姿ではないしょうか。
まさに「カメラを止めるな!」止めることは諦めであり、妥協であります。これは生きる上でかなり重要なポイントで、むしろ止めたほうが良いことが多い。諦めの悪い人はその執着心により身を滅ぼしたり時間が止まったりするケースが多いです。
しかし、ここぞという大一番では、それは反転します。止めてはいけない、止められない。やり抜くことがこれまでの殻を破り、K点を突破して新しい世界を手に入れる唯一の方法なのです。
本作はその人生の大一番を描いているように思え、胸が震えました。そしてこれは監督自身の物語でもあるでしょう。上田慎一郎監督は、人生の大一番を制し、本作で新しい世界を手に入れたのだと思います。
カメラを止めるな!この言葉は撮影中に監督が自分自身に言い聞かせ続けたのではないか、なんて推察しています。
本作は、人生するか・しないかというその分かれ道で、「する」のほうを選んだ勇気ある男のドキュメンタリーでもあると感じました。
本作が広く受け入れられている現状は、『この世界の片隅に』のブレイクと同じく、世界は捨てたもんじやないぜ、と思わせてくれます。偉大なる映画でした、最高!
*追記
宇多丸の批評を聴きましたが、まったく同じロッキーの比喩を使っていました。なんかパクリのようで恥ずかしいですが、とりあえずそのままに。