劇場公開日 2019年1月18日

「人物がとても魅力的に描かれている良作」マスカレード・ホテル アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人物がとても魅力的に描かれている良作

2019年1月19日
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鑑賞方法:映画館

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原作は,東野圭吾が 2008〜2010 年に発表した連載小説で,ほぼ原作通りの展開になっている。ホテルが舞台だけに登場人物が多く,客はそれぞれに事情や物語を抱えており,それぞれのエピソードが順序よく紹介されていくところなど,まるでドラクエ7のように,短編小説を集めたような趣がある。それらのエピソードが紹介される一方で,ホテルマンや警察官としての心構えや常識などが挟まれるように紹介されていて,見る者を飽きさせない。非常によくできた脚本である。それらのエピソードの一つに,非常に重要な伏線が周到に準備されている。

役者は非常に豪華で,ほんの少しばかりの出番にこんな実力派の役者を使うのかと呆気にとられることが度々あった。キムタクの役は本当に見事にハマっていて,非常に魅力的に見えたのは,監督が「HERO」と同じ人で,彼の見せ方を知り尽くしていたからではないかと思ったが,キムタクよりさらに長澤まさみが非常に魅力的に見えていたので,人物を見せる際のこの監督の美点なのかも知れない。

長澤まさみを最初に見たのは朝ドラの「さくら」で,2002 年のことであったので,すでに 17 年も経ったことになる。当時 14 歳で可愛らしい中学生だった彼女もすでに 31 歳である。大河ドラマの「真田丸」ではややウザいキャラを演じて,芸の幅の豊かさを見せてくれていたと思ったが,本作の彼女は更に見事な円熟ぶりを見せてくれていた。いわば,完成形の長澤まさみを見せて貰ったかのような気がした。制服姿でなく登場した時には,本当にドキッとさせられるほどであった。

音楽は佐藤直紀で,今作でもまた彼らしく実に魅力的な曲を書いていた。メインとなるテーマ曲はワルツ仕立てになっており,ゴージャスな中にミステリアスな雰囲気は「ハウルの動く城」を彷彿とさせていた。マスカレードとは仮面のことであるので,劇中でも語られるように,仮面を被った客が集まるホテルのテーマ曲としては実に相応しいと思われた。

演出は非常に緻密で,ホテルマンの蘊蓄も,警察官の蘊蓄も素直に頭に入ってきた。ミステリーの盛り上げ方も非常に見事であった。これほど原作に忠実だと,むしろ原作を読まずに観に来た方が楽しめたのではないかという気がした。唯一,惜しまれたのは,犯人が最初に登場するところの一連のシーンで,誰が演じているのか,声で分かってしまったところである。これは小説ではあり得ず,映画ならではの難点と言うべきものであろう。原作には続編もあるので,このキャストで是非映画化してほしいものである。なお,友情出演としてクレジットされていた明石家さんまを劇中で発見するのは,ウォーリーを探すよりはるかに難しいと思った。私はたまたま発見できたが,面白い趣向であった。
(映像5+脚本5+役者5+音楽4+演出5)×4= 96 点。

アラ古希