「豊田市の豊かな自然と豆腐を堪能する映画・・なのかな?」星めぐりの町 TAKAさんの映画レビュー(感想・評価)
豊田市の豊かな自然と豆腐を堪能する映画・・なのかな?
予告編がよく出来ており、震災遺児が主人公(稔侍さん)との交流で心を開いていくという映画ということで鑑賞しました。でも内容は残念ながら期待ハズレでした。
主人公と震災遺児の交流といっても二人の間に特に感動エピソードがあるわけでなく、少年は終始無言無表情で車の横に座っているだけです。時折主人公が示すいたわりの行動に思い出したように動き出しますが、そこにいたるまでの少年の心象風景を描くシーンが余りにも少なすぎるため行動の一つ一つが唐突な印象が否めませんでした。そもそもこの主人公の豆腐屋さんについて観客は簡単な家族構成とか京都で豆腐の修行をしたらしいということぐらいで何も知らされません。なぜ豆腐を作り始めたのか、豆腐への思い入れの原点ともいえる主人公の核となるものがまるで描かれていないので、プロの仕事としてこだわりをもっておられるのは分かるのですが、豆腐作りがこの物語を引っ張っていくだけの主人公の魅力になっていないように自分には感じられました。そんな二人が、出会いから終わりまでほとんど会話をかわすこともなく、あれよあれよというまに心がつながったかのようにめでたしめでたしとなって映画は終わってしまい、もっと濃厚な交流を期待していた自分としては肩透かしをくった感じで、ぜんぜん食い足りないというのが正直な感想です。
あとこれは個人的な意見で、震災をドラマ的に描く作品に全般に言いたいことなのですが、震災の悲惨さは直接体験、或いは見聞きしてもう十分世間に広まっていますからその悲惨体験をなぞるような「あの体験ゆえにこんなにかわいそうな状態です」的なエピソードはもう繰り返し見せなくてももういいと思うんですよね。それより、その回復過程の描写にこそ尺を使うべきと思います。本作もその点でバランスが逆のように感じました。実際、最初の見知らぬ土地の遠い親戚の主人公のところにいきなり連れてこられた少年の怯えぶりに、とても見心地の悪さを感じましたし、トラウマによる少年の奇行が繰り返し描写されて、感動よりもまえに、こんなところにいるよりプロのカウンセラーに診てもらってケアされた方がいいのではないか、と自分などはやきもきしてしました。仮に、少年の心の回復をうながすための田舎住まいをすることになったというのなら、いきなり連れてくる前にカウンセラーから勧められたとか、地元のそれらしき援助者の支援のもとで主人公と一緒に暮らし始めることになったとかのくだりをいれる等、丁寧な導入部が必要でしょう。
なんというか、豆腐づくりも仕込みが大切なように、物語にも伏線というか仕込みが大事だと思うんですが、本作はプロットの大枠だけ決まっていて、あとは監督さんの熱い思いで力まかせに作った感じがあって、それはそれで伝わるものも確かにあるのですが、震災遺児という繊細な主題を扱う映画としてはあまりにもラフすぎで、語り(描写)が足りなさすぎで、せっかくの監督さんの熱い思いも空回りしている感じがして残念に思いました(宮沢賢治の有名な一節のくだりも何の前触れもなく、あまりにも唐突すぎて気持ちがのれませんでした)
追記;
小林稔侍さんは好きな俳優さんの一人なので今後の益々のご活躍を期待したいと思います。それと、豊田市の豊かな自然、豆腐作りの過程やうんちく、昔風の生活の描写などはとても丁寧に撮ってあって、テーマ音楽も魅力的だったしその辺りの作りはとてもよかったと思います