ベロニカとの記憶のレビュー・感想・評価
全32件中、21~32件目を表示
追憶の美しさ
記憶はフィルター越しに美化される。
歴史は勝者によって編まれるストーリー。
当事者によってしか真実は語られ得ない、というテーマが漠然と中心に据えられつつ、ひとりの年老いた男性が、初恋の「行き着く先」を追いかける…
回想と現実とが入り組んで交錯しながらストーリーが進行していく。
その曖昧で断片的な構成が、不確かに揺らぐ記憶の性質を象徴しているようにも思える。
それとは対照的に、現在のシーンでは「目覚める→朝食→郵便物の受け取り」といった平凡な日常のサイクルを何度も描写している。この繰り返しは、見る人に「老後の平穏な日々」「かわりばえのしない毎日」といった印象を与え、激情に生きた若かりし頃との対比を感じさせる。
複雑な物語である故に、途中は「どうなっているの!?」と混乱するところも多かったが、最後には、娘への告白という形で真実をかなりわかりやすく説明してくれたので、後味はスッキリ。
内容の面でも、愛と未来を連想させる前向きなラストシーンだった。
若い頃の激情、というのは厄介なもので、長い時を経ても一生心を揺すぶり続ける。
…とはいえ、トニーの行き過ぎた言動は正直 見るに堪えない。
最後まで彼を愛せない鑑賞者もいるようだが、ジム・ブロードベントの「かわいらしいおじいさん」のような風貌が何より魅力的で、それだけでも肩を持ってしまいそうになる。
もともとポエマー気質のあるトニーは、
娘が出産という人生のターニングポイントを迎える最中にいるにも関わらず、現実から逃避して過去の記憶を彷徨う傾向がある。その上 恐ろしく鈍感で、元妻の気持ちも娘の気持ちもベロニカの気持ちも察することができずに失言ばかりしてしまう。
対して女性陣は、それぞれがとても魅力的で寛大な愛ある存在として印象づけられる。女優さんの表情も、凛として美しい。
トニーが自分を見つめ直して、マーガレットからの赦し・娘からの赦し・ベロニカからの赦しを得ていくシーンは涙を誘う。
トニーがベロニカと親友エンドリアンに送った忌まわしい手紙、タイプライターで1文字ずつ刻まれるシーンが忘れられない。
誰しもが取り返しのつかない罪を犯すだろう、彼の罪はdeleteできないのだ。
音楽も、作品特有の懐かしさ・せつなさ・浮遊感を醸し出していて素晴らしかった。
まるで音から香りがするようだった。
追憶に下手なメロディーはいらない、あのなんとも言えぬ奇妙な感覚に似た響きだけで充分だと身にしみてわかる。
人生はやり直しができる。
記憶
☆☆☆☆ 簡単な感想で 男は限りなく愚かだが、女は賢く怖い。更にそ...
☆☆☆☆
簡単な感想で
男は限りなく愚かだが、女は賢く怖い。更にその強さは永遠の謎だ!
映画は淡々と、1人の初老の男の側から語られて行く。
男の元に学生時代の友人が残した日記の遺品の話が来る。
男には過去の恋愛に絡み、彼が【仕掛けた】1枚の手紙が有った。
それによって一体何が在ったのか?作品の中では詳しく描かれてはいないのだが、(作品中の最後にワンカットだけ描かれる)
この男はそれを悔いている様子が伺える。
映画は絶えずこの男の最低な部分を余すところなく描く。
完全にストーカー行為なのだが、だからこそ日記には何が書かれているのか?が気になってしょうがない。
映画は特に大どんでん返し系の作品ではない。
勘の働く人ならば、最後の結末には「嗚呼!やっぱりね!」となるのでしょうが、鈍感な私には「うわ〜!そうだったのか〜!」…と。
それまでが「特にどうこう言う作品でも…」の思いだっただけに、ラスト10分の展開に完全に「やられた〜!」…とゆう思いが強い。
確かに道徳的にはアウトですな〜(-.-;)
この男の気持ちを受け止めてくれる元妻。
その性格を把握して、完璧なプレゼントをくれる娘。
いつも冷たくあしらっているのに、ニコニコと配達してくれる郵便配達人。
この男の周りには暖かさが充満している。
元カノの影響で始めた小さな小さなライカの中古専門店。
それを告白した時、彼女はほんの少しだけ微笑んでくれた。
ひょっとしたらいつの日にか、彼女がこの店を訪れる時が来るのかもしれない。
良い映画観れたなあ〜(*'ω'*)
2018年1月25日 シネスイッチ銀座1
男性の感想も聞いてみたい
曖昧模糊・漠然とした不安が残る映画
ジュリアン・バーンズの英国ブッカー賞受賞小説『終わりの感覚』の映画化。
引退し、小さな中古カメラ店を営むトニー(ジム・ブロードベント)。
離婚した先妻との間の娘スージー(ミシェル・ドッカリー)は臨月の大きなお腹を抱えている。
そんなある日、トニーのもとに見知らぬ弁護士から手紙が届く。
それは、かつて交際していた女性ベロニカの母親がトニーに日記を遺品として遺した、というもの。
しかし、ベロニカはその日記をトニーには渡さないという。
それを契機に、トニーには50年近い昔の青春時代のことを思い出していく・・・
というところから始まる物語で、主役はトニー。
ポスターなどではシャーロット・ランプリングも大きく扱われているので、彼女が主役なのかと思っていたけれども、重要な役ながら後半になってようやく登場する。
ということで、ここいらあたりはちょっと当てが外れた感じ。
映画はその後、トニーの回想によって、青春時代のトニー(ビリー・ハウル)とベロニカ(フレイア・メイヴァー)との恋愛関係や、トニーの友人エイドリアン(ジョー・アルウィン)との関係が断片的に描かれていきます。
エイドリアンは、後にベロニカと交際し、自殺してしまうのが、その原因や顛末をトニーは思い出せません。
思い出せないのか、思い出したくないのか・・・
ここいらあたりがこの映画の肝で、映画としてはどうにも隔靴掻痒。
思い出したくない過去の出来事を思い出し、心のわだかまりが氷解する・・・といった類の映画にも見えるのですが、もうひとつの面も。
もうひとつの面とは、エイドリアンが授業中にいう歴史観。
「過去に何かが起こった。それは確かに言えるが、誰がどういう理由でどうこうしたとは現在の視点からは何も言えない。過去に何かが起こった、としか言えないのが歴史だ」
つまり、現在の視点からみた過去の出来事は、みている者の視点によって解釈されて歪められているかもしれず、事実・真実は曖昧模糊。
トニーの(思い出せないのか、思い出したくないのかわからない)思い出した過去の記憶は、トニーにとって都合のいい過去の書き換え・・・
まるで、フィリップ・K・ディックのSF小説のよう。
映画では、エイドリアンの自殺の顛末も明らかになるのだけれど、それもトニーが思い出したこと、思い至ったことに過ぎず、真実ではないのかもしれない・・・
と、まぁ、なんだか「・・・」ばかりが多い感想になってしまったが、そんな曖昧模糊・漠然とした不安が残る映画でした。
なお、シャーロット・ランプリングは現在のベロニカ役で、その他、『ラースと、その彼女』『シャッター・アイランド』のエミリー・モーティマーがベロニカの母親役で回想シーンに登場しています。
一時の衝動
原作未読
60歳を過ぎ中古のカメラ店を営むバツイチの男に見知らぬ弁護士から40年前の学生時代に別れた恋人の母親の遺言で譲渡するものがあるという知らせが届いたことから、過去を振り返る話。
あらすじでは記憶を書き替えていたとなっているが、封印していたのか思い出さなかっただけなのかとも感じられる内容で、ベロニカとの馴れ初めからを思い出しながら元嫁に話していく形でストーリーが展開していく。
親友の日記を元彼女の母親からとか複雑だし、昔の話が途切れ途切れに小出しに語られる為、途中から後出し感もあるものの昔の話が全てみえた時に何とも悲しい気持ちにさせられるし、知らなかった事実は更に衝撃的。
サスペンスという触れ込みに若干の違和感があったけど、確かにサスペンス作品だった。
又、いくつになっても幼く鈍感で偏屈なオヤジが、一時かも知れないけど自分を見つめる姿に何ともほっこりした。
観た後で、原作が無性に読みたくなった
ブッカー賞受賞作ジュリアン・バーンズ原作「終わりの感覚」を『めぐり逢わせのお弁当』リテーシュ・バトラ監督が映像化した
『ベロニカとの記憶』を試写会で鑑賞
カズオ・イシグロの『日の名残り』がお好きな方には
是非観て頂きたい1本ということで おススメしたい作品
イギリス、ロンドン
ある日届いた一通の手紙
40年前の青春時代への記憶の旅が始まる
人生の謎を自ら解き明かす感動のミステリー・・・
このミステリーの結末は「若さ」ゆえの過ちが導いてしまった悲劇だったというこの作品のこの結末部分をネタバレさせても
観に行く価値が下がることには繋がらない
そこへ至るまでの
主人公トニー:ジム・ブロードベンとベロニカ:シャーロット・ランプリングの芸術的な演技を中心として進行していく物語を観ることに価値がある作品
特に、シャーロット・ランプリングの凛とした美しさの中に浮かび上がる静かな心情が匂い立つ演技は、ベロニカの過ごしてきた時間の重みについて想像を掻き立てる
この作品の良さは 彼らの演技だけでなく
何気なく描かれている エピソードの一つ一つが
自分のモノのように
懐かしくて愛おしく感じてくるから不思議だ
この作品を楽しんでいる自分と
作品を通して自分も過去を振り返っている
決して ノスタルジーに浸る作品ではない
静かに内面に切り込んでくる
人生を哲学的にエンタテイメントした作品だった
だからなのかなぁ
映画を観終わった後
無性にこの作品の原作を読んでみたいと思い図書館に予約を入れた
原作はどんな感じなんだろう
今から本と会うのが楽しみ!
都合よく塗り替えられた初恋の思い出
40年前、学生時代に付き合っていたガールフレンドの母親が主人公のトニー(ジム・ブロードベント)にあてた遺書
そこに書かれていた彼への遺品は、自殺してしまった親友の日記だった
面白かったなぁ
サスペンス的な雰囲気もある人間ドラマ
人は記憶の断片を組み合わせて、自分の都合の良いように思い出を作り上げてしまうという話
ここで描かれるのは、初恋の思い出
そのとき二人で作り上げた関係は、周りの噂に惑わされず、最後まで二人で話し合って終わりを決めるべきなのに
でもそれが大学生の若さだと、理性よりも情熱が先走り、自分の感情だけで勝手に終わりを告げてしまう
それが、後々大きな誤解を生むとも気づかずに
そして40年の月日が経つ
40年も経てば、少しは大人になっているだろうと思っていても
悲しいことに、人は40年経ってもろくに成長もせず、同じことを繰り返してしまう
主人公のトニーが、なんともデリカシーがなく鈍感で偏屈なことにイラついてしまうけど
次第に自分の父親を見ているような気分になり
最後には、そんな彼も愛おしくなっていく
人って誰も完璧にはなれないよね
いっぱい失敗をして生きていくんだよね
だからこそ、愛おしいんだよ
大学時代の友人に会うと、あの頃の自分に戻ってしまうのはなぜだろうといつも思うけど
それは、世界共通の感覚なんだなぁと思った
年とって。。
全32件中、21~32件目を表示