劇場公開日 2023年11月17日

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「さらば、愛すべきクレイグ・ボンド」007 ノー・タイム・トゥ・ダイ SGさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0さらば、愛すべきクレイグ・ボンド

2021年10月18日
iPhoneアプリから投稿

原題の意味は「死んでる暇はない」あるいは「死んでる場合じゃない」
ダニエル・クレイグが今作で007シリーズを卒業。
過去のボンド役とは一線を画した新たなヒーロー像を確立し、世界的大ヒットを記録してシリーズの格を上げた功績は大きく、この最終作は"クレイグ・ボンド"に相応しい花道をと、製作側もかなり意気込んだ内容となっている。
しかしその貢献へのリスペクトを重んじるあまり、新しい基軸の一つであったエモーショナルでウェットな人間ドラマの要素がより色濃くなり、その方向に寄り過ぎた感が否めない。
それを求めていたファンもいるだろうが、個人的には謎の美女パロマが登場するキューバのシーンや(もっと観たかった!)、イタリア・マテーラの洞窟住居の絶景をバックにしたカーチェイスやバイクシーン(ややジェイソン・ボーン的ではあるが)の方が、ロケーションムービーとしての楽しさとクレイグ・ボンドのクールでハードなリアリティアクションを堪能できて嬉しかった。

ぶっちゃけ言うと、これまでもあったボンド自身のルーツや前任の上司Mとの絆、「カジノ・ロワイヤル」で死んだ元恋人への未練なんてのはどこかで捨てて、007シリーズの根っこにある純粋な娯楽の精神を今こそ貫いて、スーツ姿にアストン・マーチンで世界を颯爽と駆け抜けるビッグスケールのスパイアクションに邁進してほしかった。
どこかで観たような泣かせにかかる展開は逆に興醒めすらしてしまった。
この脚本はどうにも好きになれない。
元々のダニー・ボイルが降りて、代わりに就いた日系アメリカ人監督キャリー・ジョージ・フクナガは、TVシリーズの「トゥルー・ディテクティブ」は最高に良かったが、今作はさすがに荷が重かったか。

今回の悪役サフィン(ラミ・マレック)もかなり中途半端に感じる存在感で、これがボンドたちがずっと追い続けてきた悪の組織スペクターをも壊滅させる最恐の敵だと分かり拍子抜け。
敵のアジトに潜入して彼と対峙する後半はハッキリ言って退屈で心躍らなかった。彼の動機に関する語りのシーンも説得力に欠け、正直こんなことなら片眼になったスペクターのドン、ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)を完全復活させてほしいくらいだった。
敵が強く魅力的であるほど作品自体が輝くというのを改めて感じた。

ダニエル・クレイグは私の中でもジェームズ・ボンドとしてベストではあるが、残念ながら今作は彼のベストにはならなかった(個人的にはワーストかも)
彼を超えるボンドを作り上げるのは今後なかなかの難業だし、意外と駄作も多い本来の007にハードルを下げてこちら側も観る必要があるだろう。
せめてQ(ベン・ウィショー)は引き続き出てほしいなぁ。

SG