「良くも悪くも、終わる事にフォーカスしていた」007 ノー・タイム・トゥ・ダイ デッカー丼さんの映画レビュー(感想・評価)
良くも悪くも、終わる事にフォーカスしていた
会社にも同じことが言えるが古くから続く物事は考えが凝り固まり新しい試みがしにくくなる傾向にある。
通説判例的であるがダニエルクレイグ版007は最後まで挑戦的で素晴らしいトリロジーであった。
No time to Dieはそのタイトル通り、まだ死ぬ時では無いという意味である。
それはボンドだけに向けられたモノではなく、MI6、ボンドガール、あらゆる善意に向けられたモノであると感じ取れた。
ボンドは殺し合いの螺旋を降りて安泰な暮らしを望んで余暇を楽しんでいたが、結果的に殺し合いの螺旋を降りることは出来ず、愛する人を守るために再びバイオレンスの世界に戻ることになる。
■螺旋
殺し、復讐などの繰り返され終わることのない螺旋。
オープニングクレジットにも螺旋状のピストルがお互いを撃ち合い、遺伝子配列にリンクさせており、上手い演出。
■新しい時代、古い時代
新しい時代(女ボンド、ボンドの子供、システムの電源の入れ方まで)、古い時代(過去に囚われる、過去M)
ボンドの変革の時というのを感じられた。次回トリロジーへの暗喩?
また新しい時代としてオープニングクレジットにビリーアイリッシュを選択したのも興味深かった。
歌詞としては過去のボンドガール、それも死んでいった女達目線で語られる後悔や怨念の様な視点が素晴らしい。
■ボンドらしさ
ガジェット、ユーモアなど、ダニエルクレイグ以前のボンドらしさがトリロジー史上一番詰まっている。
遺伝子を条件として殺す対象をフォーカスして殺すウィルスという兵器も新時代的でとてもいい。コロナが拡大する前に撮影が終わっていたため悲しい偶然かな延期せざるを得ないのは無理もない。古くはルワンダ内戦、昨今のBLMやウィグルなど民族浄化にフォーカスした恐ろしい兵器で社会情勢を汲み取れていた。
"マドレーヌとの子供"という未来がある事で、自分という存在を浄化する必要があるという、悲しくも男らしい決断で締めたのはよかった。
少し残念な点としては以下。
・カーアクションやガンアクションは盛り沢山なものの、真新しさは無いため、少し物足りなさがある
・サフィンのバックグラウンド描写が少なく、ヴィランとして弱い(演技はとても良い)。
何故能面?何故毒の庭を活用したか?顔の傷は?
キャリージョージフクナガ監督が日本のアイデンティティがあるのは分かるが、描写としては不足。(おそらく全体のボリュームがすでに3時間くらいあるので、やむを得ずカットしたのだろうとは思うが)