「笑えるコメディだけど、ピーターラビットである必然性はない」ピーターラビット 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
笑えるコメディだけど、ピーターラビットである必然性はない
素朴で可愛らしい絵柄のピーターラビットのお話のイメージからすると、この実写版がピーターラビットらしいかどうかは意見があるだろうし、私自身もそこには疑問を感じていたのだが、気づいたらしっかり声を出して笑ってしまっていて、そうか、これは「ピーターラビット」の実写映画化ではなく、ひとつのブリティッシュ・コメディなんだなと解釈し直した。
監督のウィル・グラックはあの有名なミュージカル「アニー」を現代的に作り替えた人物だけれど、「ANNIE/アニー」の時にはどうやっても拭い去れなかった”コレジャナイ”感が、この「ピーターラビット」では案外簡単に許せてしまったのは、とにかく笑えるシーンがたくさんあったからだ。原作に忠実とは到底言えない内容でまったく感心し難いはずなのだが、ハリウッド・コメディとはちょっと風合いの違う、イギリスらしい喜劇センスが的確で、なんだかんだ笑わせられてしまったのだからもう仕方ない。
その笑いの原動力になったのが、ピーター役のジェームズ・コーデンだろうと感じた。日本とは違い、ボイス・パフォーマンスを収録してから映像を作る手法が主流である欧米のアニメーション作品において、おそらくコーデンはアドリブ満載でピーター役を演じたことだろうと思う。コーデンがピーターラビット役で声の演技を楽しみながら自由気ままにジョークを飛ばしているのを見て、これってきっと、セス・マクファーレンが「テッド」でやったことにも通じるものがあるのでは?という風に感じた。可愛い可愛いピーターを掴まえてなかなかのジョークをやるあたり、どことなく共通点があるような。
もちろん、ライブ・アクション組のドーナル・グリーソンとローズ・バーンも良かったし面白かった。特にグリーソンは、あまりこういった体を張ったコメディを演じるイメージがなかったので、正直ミスキャストでは?とさえ思っていたけど、作品を見たらなんだ本人も楽しんで演じてるじゃないの。実に素直に笑わせてもらいました。
さすがにアレルギーを狙ったイタズラや、爆薬を投げつけたり、巨木が家を崩壊したりというところまで行くとやりすぎ感が否めず。気弱な人間とウサギのしょぼい対決だから笑えたような部分が、どんどん度を超えた大事(おおごと)になっていくにつれて、単純に笑う、という風には行かなくなってしまったのも事実。かなり行き過ぎな内容も散見されました。
それに、やっぱりピーター・ラビットを愛する者、そして最もピーター・ラビットを愛したであろう原作者ビアトリクス・ポターを思うと、この内容で果たして良かったのだろうか?という思いは消すことはできなかった。この内容をやりたいなら、あえて「ピーターラビット」でなければならない必然性は特に存在しないのである。私自身、楽しく映画を見させてもらった一方で、ウォルト・ディズニーにアニメ映画化を要請された時にポターがそれを固辞した上で、今になってこの程度の内容で映画化が許可されたというのは、果たしてそこにポターの遺志はあったのだろうか・・・と首を傾げたくなるのだった。