「なぜ、彼は姿を消したのか」ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー とえさんの映画レビュー(感想・評価)
なぜ、彼は姿を消したのか
ケヴィン・スペイシーが出演してる映画にお金を払うのもどうかと思ったのだけど、ニコラス・ホルトを観たい!と思って行ってきた
で、結局のところ観てよかった
伝説の小説家 J・D・サリンジャーのことが少しわかった気がした
この映画は世界的ベストセラー小説「ライ麦畑でつかまえて」を書いた小説家 J・D・サリンジャーの生涯を描いている
どのようにして「ライ麦畑でつかまえて」が生まれ、その後、なぜ彼は姿を消してしまったのか
これまで多くの謎に包まれていた「その理由」がわかる作品になっている
私が「ライ麦畑でつかまえて」に初めて出会ったのは20代前半の頃だった
大人たちから押し付けられた社会に反発し、ひたすら悪態をつき続ける主人公ホールデンに共感し「僕は子供たちが崖から落ちないように見守る大人になりたい」と言うホールデンの優しさに感動した記憶がある
そのホールデンというキャラクターの背景には、サリンジャー本人の戦争体験があったことを、この映画を観て初めて知った
サリンジャーは1930年代後半から第二次世界大戦に従軍し、ヨーロッパへ派兵され、多くの仲間たちが死んでいくのを目の当たりにしてしまう
壮絶な戦争体験をした後、終戦して帰国したサリンジャーはPTSDに悩まされることになる
そんな彼が戦時中も、戦後も、心の拠り所としたのが「小説を書くこと」だった
心に深い傷を負ったサリンジャーが生み出した「ライ麦畑でつかまえて」はベストセラーとなり、サリンジャー本人は人々の注目を集めるようになる
その当時、社会に溶け込むことができないホールデンを描いた「ライ麦畑でつかまえて」が爆発的ベストセラーになった背景には、サリンジャーと同じように戦争の後遺症に悩んでいた人々がたくさんいたということだと思った
それは、この映画の中にも出てくるけれど「ホールデンは私だ」と信じ込む人々のことだ
彼らもサリンジャーと同じように従軍してPTSDに悩まされたからこそ、ホールデンに共感し、まるで自分のことを書いていると思うのだ
1980年、ジョン・レノンを暗殺したチャップマンの愛読書は「ライ麦畑でつかまえて」だというのは有名なの話だ
サリンジャーは、自分自身を戦争後遺症から救うために本を書いたのだが、彼が生み出したホールデンが彼から離れて一人歩きしてしまったのだ
そして一気に増加したホールデンのファンたちは創造主サリンジャーを英雄視するようになる
サリンジャー本人は小説を書いても救われなかったのに、彼の小説を読んで救われた人々がたくさんいたというのは、なんとも皮肉な話だ
私は「ライ麦畑でつかまえて」と出会って以来、サリンジャーがその後隠遁生活を送ることになったのが、とても謎だったのだけど、この映画を観てようやく理解できた
サリンジャーという人は、小説家向きではあるけど、戦争に行くにはあまりにも繊細過ぎたのだ
その心は戦争によって破壊され、サリンジャーは自分を守るために固い殻を作ってしまった
その反発心がホールデンというキャラクターを生み、彼の心の奥にある優しさが「崖から子供が落ちないように見守りたい」という言葉を生み出したのだと思った
サリンジャーに隠遁生活を送らせた一番の要因は第二次世界大戦だったのだ
「フィールド・オブ・ドリームス」では伝説の小説家として登場し、「小説家を見つけたら」のモデルと言われるサリンジャー
そこまで熱望されても、一切、マスコミの前に姿を現わすことはなかったサリンジャー
そんな彼の生涯を知ることができて、観てよかったと思った
それにしても、切なずぎる生涯だったな