「『細かな粗をも補うめくるめく映像体験』」悪女 AKUJO 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
『細かな粗をも補うめくるめく映像体験』
自宅(CS放送)にて鑑賞。導入部から『ハードコア('16)』を思わせるFPSによるいきなりの襲撃シーン──のみに留まらず、アングルは視点の主を舐め回す様に周回すると再度、視線の主へと戻る。更にこれらの動きを縦横無尽に行き来、繰り返す正に自由自在なカメラワークで、これは二輪車やバスを用いたアクションシーンでも観られる。対象をぶらしたり、髪や衣服等、被写体の一部へのズームアップにて繋ぎ目を合わすワンカットに見せるPOVのテクニックも多用している。それにしてもここ迄来たかと感心するショットやシーケンスが多く、この斬新な映像を体験するだけでも一見の価値あり。70/100点。
・韓流お得意の復讐譚であるが、誰に対する何のリベンジなのかと云う点に捻りが加えられている。オープニングがラストに繋がる作りではあるが、ストーリーや構成自体は至ってシンプルである。
・キム・ソヒョン演じる“クォン”宝塚歌劇の男役を思わせる短髪に終始、飾り気のない無彩色な(主にグレー系の)パンツスーツを着用しており、至ってクールな身のこなしに冷徹で無慈悲な言動、「(そんな事すれば)私の二の舞になる」と云うたった一言で過去への想いを想像させる秀逸な科白が佳かった。
・鑑賞直後は、壮絶で迫力満点なアクションシーンについ眼を奪われ勝ちだが、一旦冷静になり、全篇を見渡すと矛盾した箇所やプロットホールとも呼べるご都合主義的な展開等に思い当たってしまう。例えば黒幕であり、本作最大のキーパーソンであるシン・ハギュン演じる“ジュンサン”、冷酷なのは判るが、工作員としてその言動は、有能なのか間抜けだったのか、よく判らないキャラクターだったりする。タイトルも内容に即しておらず、今一つしっくりこない。繰り返しになるが、アクション(特に車・バイク絡みの)シーンは迫力満点なだけに惜しまれる。
・大まかなプロットやシーケンスは『ニキータ('90、ハネームン中に指令を受けユニットバスでライフルにて銃撃するシーンもきっちり有)』や『コロンビアーナ('11)』と云ったL.ベッソンの一連の作品群を髣髴させ、似たシーンやオマージュを思わせる箇所も多かった。『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション('15)』内で、オペラハウスに黄色いドレスを身に纏ったR.ファーガソン扮する“イルサ・ファウスト”が標的を狙うソックリなシーンがある。更に幼少期のエピソードと描写は、『キル・ビル('03)』その儘である。
・“ジュンサン”のシン・ハギュン、誰かに似てると思ったら、引退したエスパー伊東もしくはインパルスの板倉俊之で、孰れもお笑いの方が思い浮かんだ。“チャン・チョン”のチョン・ヘギュン、 “スクヒ”の父親としてパク・チョルミン、命乞いする惨めなラストを迎えるライバル工員“キミウ・ソン”のチョ・ウンジ等、監督の常連組を顔を揃え、ガッシリと脇を固めている。
・第70回 カンヌ国際映画祭('17)内で5月21日に初公開された折、終了時にスタンディング・オベーションを受け、約四分間に亘り、拍手が鳴り止まなかったらしい。