「これからも傍観者のままでいいのか」シリアにて h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)
これからも傍観者のままでいいのか
つねに銃弾や砲弾が飛び交うシリア内戦下のアパートの一室における密室劇。
フィクションのかたちをとっているが、シリア内戦は今も続いており、同じような、いやそれ以上の惨劇が今も繰り返されている。
内戦下の日常生活をハンディカメラにおさめた「For Sama」は優れたドキュメンタリー作品だが、本作では敢えてフィクションで描くことで現実の凄惨さを訴える重要性を示してくれている。
あまりの酷さに目を向けられない可能性があるため、意図的に現実の凄惨さよりもトーンをおとしているような感もある。
アサド政権を支援するロシアやイラン、反政府勢力を支援する米国、クルド人問題で対立する隣国のトルコ、その他EU、サウジアラビアやイスラエルなどが入り乱れ、さながらシリアの地はBattle Royalのリングのよう。
ユーゴ紛争やアフガン戦争のときもそうだが、最終的にいつも割りを食うのは一般市民である。シリア内戦で亡くなった民間人は約12万人にのぼる。また、難民として国外に逃げざるをえなかった市民は、紛争以前の国民の半数近い約11百万人を超えている。
「これはよその国の話で、平和国家の日本では関係のない話だ」と他人事ですまされるのだろうか。シリア難民問題が国内問題に直結するEU諸国と異なり、日本におけるシリア内戦の報道や論調は驚くほど少なく、日本政府はシリア難民の受け入れを事実上拒否している。
永遠に自分たちは戦禍に巻き込まれないと言い切れないなか、私たちはこの問題に対して傍観者のままでいいのだろうか。
コメントする