劇場公開日 2019年1月5日

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「いつかの熱狂と不安」迫り来る嵐 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.0いつかの熱狂と不安

2019年2月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

 映画の全編に重い雨が降っている。もちろん、主人公の閉塞的な状況を表わしているのだが、この雨は湿度というよりも冷たさ、寒さを主に感じさせる。
 誰もが早くそこから抜け出したいと感じている、工場での労働生活。そこから抜け出すために主人公は、連続殺人の犯人探しに熱を上げる。
 その熱にうかれた上昇志向を、後になって振り返るとき、彼の記憶はすでに曖昧模糊としている。熱狂の果てに全てを失い、はたと後ろを振り返ると、自分の歩いてきた道が消えている。
 改革開放により経済が急成長したが、この成長も階段の踊り場に差し掛かっている。そんな時代に、多くの中国人はこのような気持ちで自らの来し方を振り返るのではないだろうか。
 そして、開放前の共産党の諸政策に、その時々踊らされてきた人々は、やはり同じような気持ちを感じてきたのではないだろうか。
 映画は、そんな中国の人々が繰り返し味わってきた虚無と不安を描く。とんでもない暴雪がいま将に至らんとしている、中国という国の現在の心象風景。

佐分 利信