「安易な日本版タイトル以外は完璧」負け犬の美学 あいわたさんの映画レビュー(感想・評価)
安易な日本版タイトル以外は完璧
華々しい活躍を出来ぬまま45歳を迎えた引退間際のボクサーが、自らの夢を半ば諦めつつも、それでも家族の生活と夢のため、チャンピオンのスパーリングパートナーを願い出る話。
何よりオロールが可愛くて健気で最高。あんな娘が欲しい。
お父さんのお金への汚さにコンプレックスを抱きつつも、それが決して裕福でない家族のためと理解しているから気付かないふりをしたり。
お父さんの勝利を誰より願いながら、それでも目前でボコボコにされたり侮辱されたりするのが耐えられず引退試合を見にいけなかったり。
並の映画なら引退試合中に娘が試合に入ってきてそこで気合の入った主人公が一気に形成逆転、というのが定石なのだが。娘が来ていないことが分かっても愚直に最初から最後までベストを尽くし続ける、それがスティーブの誇りであり美学なのだ。
オロールのピアノだって決して天才的な才能でもなんでもない。そんなことはきっとスティーブも分かっていて、それでもオロールのためにピアノを買いたいと無茶をしてしまうのだ。
この映画は、単なるボクシング映画ではなく、才能や名誉とは無縁でも愚直に努力して前向きに生きる市井の家族の愛の物語であり、家族の為に一途に働く中年親父への応援歌だ。
誇りを持って戦う父親を応援する映画なのに、自ら負け犬と冠してしまうなんて、なんとも残念なタイトルだ。原題通りスパーリングで良いじゃないか!
チャンピオンの試合を一切描かないラストも秀逸だ。期間限定のスパーリングパートナーを務め切ったスティーブにとっては引退試合だけが全てであり、チャンピオンの試合なんてどうでも良い(そのことをチャンピオンすらも理解している)のだ。欲張り過ぎず映画のテーマのみに焦点を当てた脚本が良かった。