「ひとつの生き方」負け犬の美学 CBさんの映画レビュー(感想・評価)
ひとつの生き方
邦題は「負け犬の美学」、原題は「スパーリング」。内容は、元世界チャンピオンが世界復帰戦に向けて進める練習のスパークリング相手に選ばれた、というかもぐりこんだ主人公の生き方という映画なので、原題の方が素直だなと思う。
主人公は、13勝33敗3分という成績で、明らかにボクサーとしての才能にあふれているわけではない。
娘にピアノを買い与えるための金を稼ぐために、なんとかスパーリングパートナーの座を得るのだが、最初のスパーリングで元チャンピオンにその実力が低いことをあっというまに見抜かれ、「もう来なくてよい」と言われる始末。
それでも「俺は負けても戦っている。元チャンピオンのお前はこの前の敗戦で戦うのが怖くなっているだろうが、俺にとってはそんなのは当たり前だ。お前にないものを知っている。俺を雇い続けろ、と直談判して、その職を守る。
愛する娘が大好きなピアノを弾くのを幸せに見つめ、聞けば、娘のピアノが決して飛びぬけて上手いものではないし、どちらかといえばまだたどたどしいものだとすぐわかるのだが、「娘には特別な才能がある」と妻にも力説し、しっかりした教育を受けさせようとする。
一方のボクシングでも、前述したような戦績であるにももかかわらず、元チャンピオンに「こう戦え」と伝えるコーチの前で、「そういう戦い方は、相手も予測してくるだろうから、こう戦うのがよいと思う」と堂々と進言する。もちろんあきれ顔のコーチに「お前は何勝何敗だ。よけいな口を出すな」と言われるのだが。
俺も、つい「弱い奴が何を言っているのだ」と思ってしまうが、ふと考えてみた。強くないと、上手くないと発言する機会はないのだろうか、と。
勝つか負けるかは結果であり、ボクシングが好きで勝っても負けてもよし次の試合をやろうと思える主人公は「俺はボクシングに向いている」と心から思えており、スパーリングであろうと、仕事に自信をもっているということか。つまり、この話は、敗者がどうこうではなくて、自分の仕事に自信をもって働いているひとりの男の、その自信ある生き方の話なのだ。
そして主人公は、その考え方の延長として、「娘はピアノを楽しんでいる。練習をいとわない。つまり彼女はピアノに向いている」と考えるのだ。だから、上手い上手くないにかかわらず、娘にその場を与えることは父親である自分がやるべきことなのだ。
このような確固とした信念をもって仕事に臨みたいし、このように生きたいと思わせる映画だった。
父親の仕事を見たがっていた娘が、はじめて見ることができたのは公開スパーリング。そこで冷笑される父親をみた娘は、「もう試合は見たくない」と言い、父親の最後の試合が世界戦の前座という晴れ舞台で組まれた試合も、けっきょくは見に来ない。
「見るのを嫌がっていた娘が、結局は最後の試合を見ることになり、その試合で父親が劇的な勝利を収める」といった、俺が思い描くようなエンタメ展開にはならない。
けれど、試合を終えて帰ってきた父親に「勝った?」と聞き、結果を聞いて素敵な笑顔を見せる娘をみると、この映画にはこちらの展開の方がしっくりしているなあと感心する。
ボクシング映画の傑作でもあるが、それ以上に、普通の人のしっかりした生き方を語る映画として非常に秀逸。
ありがとうございました。
個人的尺度:3.0は「損はしない」3.5以上は「見てよかった」。2.5以下は「なんらかの点でがっかり」
いつもコメントありがとうございます!
僅か3ヵ月でボクシングを辞めてしまったkossyです。
友人がスパーリング中に歯を折ってしまったのを見て、「ヘッドギア、マウスピースつけてても折れるんだ・・・」と、急に辞めたくなったヘタレです。
でも縄跳びだけは上達しましたよ♪