悪魔のレビュー・感想・評価
全2件を表示
谷崎文学か、ただの変態映画か観る人によって違ってくる
谷崎潤一郎の短編小説を映画化するプロジェクト「TANIZAKI TRIBUTE」の作品の一つ。
谷崎潤一郎に多少なりとも興味があり、谷崎文学に歩み寄って考察できるならば、いろいろと感じながら観ることができるかもしれませんが、観る人によっては退屈でつまらない、ただの気持ち悪い変態映画かもしれません。」
主人公が列車に乗っているシーンから始まり、強迫神経症(強迫観念)に悩まされ、佐伯は常に死の恐怖と妄想に取り付かれているのですが、谷崎潤一郎の短編小説『恐怖』の鉄道病という病を抱えた主人公の苦悶と重なってきます。のっけから、谷崎文学が始まっていました。笑
携帯電話などを使っているので現代風にアレンジされているのでしょうが、まかない付きの間借りの下宿というスタイルは古典的で古めかしく、障子の隙間からのぞき込むシーンなどは、どこか江戸川乱歩ぽい感じもしました。
今でこそ、脚フェチという言葉は普通に使われているけれど、明治・大正時代に谷崎はすでにフェティシズムについて言及していたのですね。照子に付きまとう居候の鈴木はストーカー。主人公と同級生の女子大生、首を絞められても、佐伯から離れることなく親切に接する姿はどこかマゾヒズム的で正常とは思えない。男性を手玉に取って自分のペースに巻き込み他人を破壊させる照子はいわゆるボーダーラインみたい。現代を巣食うさまざまな病理が浮き上がってきます。
原作を読んでいないのでよくわかりませんが、途中で何度も登場する、不気味な海老は何を意味するのか。
主人公を演じた吉村界人くん、怪演+好演でした。以前に観たドラマ『健康で文化的な最低限の生活』でも、独特のオーラがあって、すごく印象に残っていました。
<備忘録>
「TANIZAKI TRIBUTE」3作品
1.『神と人間の間』
2.『富美子の足』
3.『悪魔』
タナトスとエロス
谷崎トリビュートの連作の中でも今作が一番分かり易く、出来映えの良い作品だと思う。原作的にも現在の闇に直結するミステリーであるし、そのサイコホラー要素は古めかしくない今の時代の問題なのだと感じる。
強迫性被害妄想を抱えたまま大学生活を始めた男がその心の病故、常軌を逸して奈落へ転がり落ちるという古典的なあらすじである。分かり易くその妄想が過ぎると鼻血をだしたり、ヒロインのファムファタール(ま、ほんとの女子高生はそこまで感情操作など出来ないのだが)、運命に従うかのような死への誘いがきちんと流れの中で矛盾を生じず進んでゆく。原作未読なので分からないのだが、登場人物の中の主人公に親切に接する大学の同級女子の件はもっと深く突っ込んで欲しかった。自殺した弟と同じ匂いがするその主人公に身体まで差し出し、首まで絞められてもまだ献身的に接する女神のようなスタンスは、光と影の二原論を表現しているのだろう。だからこそその光がより目映い程、悪魔である女子高生の手練手管の悪さが際立つと思うのだが・・・
メタファー的に映し出される海老のカットは、何かを暗示しているのだろうが、結局意図が読めなかったのは自分の勉強不足である。今作のキモのシーンである、ビンタをされながらの挑発発言の練習は、大変勉強になった。多分、男としてはあれが禁断そのものなのだろうとしみじみ感じた。鏡の裏の盗撮カメラは、よくラブホである都市伝説を利用したトリックなのだが、それならば、鏡の前でタバコに火を付けて、映像が二重に映るシーンを差し込んでくれれば、良いネタ振りだったのにと残念である。
いずれにせよ、ここ最近の理解しやすい『病んだ映画』としての高評価を称えたいと思う。
全2件を表示