「タナトスとエロス」悪魔 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
タナトスとエロス
谷崎トリビュートの連作の中でも今作が一番分かり易く、出来映えの良い作品だと思う。原作的にも現在の闇に直結するミステリーであるし、そのサイコホラー要素は古めかしくない今の時代の問題なのだと感じる。
強迫性被害妄想を抱えたまま大学生活を始めた男がその心の病故、常軌を逸して奈落へ転がり落ちるという古典的なあらすじである。分かり易くその妄想が過ぎると鼻血をだしたり、ヒロインのファムファタール(ま、ほんとの女子高生はそこまで感情操作など出来ないのだが)、運命に従うかのような死への誘いがきちんと流れの中で矛盾を生じず進んでゆく。原作未読なので分からないのだが、登場人物の中の主人公に親切に接する大学の同級女子の件はもっと深く突っ込んで欲しかった。自殺した弟と同じ匂いがするその主人公に身体まで差し出し、首まで絞められてもまだ献身的に接する女神のようなスタンスは、光と影の二原論を表現しているのだろう。だからこそその光がより目映い程、悪魔である女子高生の手練手管の悪さが際立つと思うのだが・・・
メタファー的に映し出される海老のカットは、何かを暗示しているのだろうが、結局意図が読めなかったのは自分の勉強不足である。今作のキモのシーンである、ビンタをされながらの挑発発言の練習は、大変勉強になった。多分、男としてはあれが禁断そのものなのだろうとしみじみ感じた。鏡の裏の盗撮カメラは、よくラブホである都市伝説を利用したトリックなのだが、それならば、鏡の前でタバコに火を付けて、映像が二重に映るシーンを差し込んでくれれば、良いネタ振りだったのにと残念である。
いずれにせよ、ここ最近の理解しやすい『病んだ映画』としての高評価を称えたいと思う。