劇場公開日 2019年4月12日

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「居場所がない」荒野にて andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0居場所がない

2019年4月17日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

居場所がない。
15歳にして完全に行き場所を失ってしまった少年チャーリーは、売られる運命の競走馬ピートと、唯一の希望、伯母のところへ向かう。
...と書くと「母をたずねて三千里」みたいだが、まああれも相当過酷だが、主人公の孤独が想像を絶している。彼は大人が手を差し伸べようとするたびに逃げる。何が彼をそうさせてしまうのか...誰にも頼れない少年が、唯一頼れる(もはや依存とも言える)のはもの言わぬ馬のピートであるあたりが特に悲しい。チャーリーがピートに「乗らない」のは、おそらく支配したいのでなく、寄りそって、寄りかかっていたいから。原題の通り、”lean on”したいからなのだろう。
彼の本音は「つらい、寂しい、助けて」なのだけれど、周りにそれを見せられない状態で育ってきてしまった悲しみ。頼れる者を持たなかった少年の孤独がひたすらに沁みる。
しかし彼は究極的に優しい。馬にも人にも非情になりきれない。だからこそ余計に苦しめられる。
寄りかかれる存在を喪ってなお、ようやく辿り着くラストに彼の平穏を祈らずにはいられない。
「ゲティ家の身代金」にも出ていたチャーリー・プラマー、さすがマルチェロ・マストロヤンニ賞ともいえる演技。想像を絶する孤独の過程を全身で表現していた。そして声だけでそれと分かるスティーヴ・ブシェミの安心感たるや...。大人の論理を見せつけつつも案じるその感じがよかった。

andhyphen