劇場公開日 2018年2月1日

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「ストーリー展開とともにキャラクターの人間性の裏面が浮かび上がる優れた群像劇」スリー・ビルボード 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ストーリー展開とともにキャラクターの人間性の裏面が浮かび上がる優れた群像劇

2023年3月18日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

他のレビューにもあるが、本作はコーエン兄弟の『ファーゴ』に似ている。主演が同じというだけでなく、雰囲気が似ているのだ。
その類似感が何処から来るかと言えば、恐らく人物像の設定や会話が通常のドラマのイメージから若干ズレていることに由来する。

例えば『ファーゴ』の場合、田舎町のノンビリした間抜け揃いの警察官の中でただ一人、頭脳の回転が素晴らしく犯罪推理のキレが抜群な人物がいて、それがこともあろうに臨月も間近いオバちゃんだったというユニークさが際立っている。
田舎町のゆったりしてまどろっこしい口調の人々と犯罪者たちの神経質で緊張した口調との対比、人柄はいいが気が弱くてつまらない仕事の愚痴をこぼす肥満男と、彼を慰める妻であるオバちゃん警官とのアンバランスぶり等が全体のズレてユーモラスな雰囲気を醸し出していた。

本作の場合もそうしたキャラクターや会話のズレがいたるところに見られる。

例えばいかにもマッチョで、バカな若い娘のレイプ殺人事件など適当に処理してしまったと思われた警察署長は、実は家庭内では大変な愛妻家で子供思いのよきパパで、ガンにより余命も限られた境遇ながら部下の言動には愛情深く気を遣っている。そして主人公には事件の報告こそなかったものの、きちんと捜査をしたことがわかってくる。

差別主義者の警官は乱暴者でやたらに暴言を吐く威勢のよさと裏腹に、でっぷりと太った母親の言うがままのマザコンだが、一皮むくと根は犯罪捜査に熱意のある有能な人物である。
主人公の味方をしてくれる数少ない住民の一人、小人症の男性は、主人公に気に入られようとしているだけの弱者かと思えば、最後には自分をないがしろにする主人公に厳しい叱責を浴びせるしっかりした男だ。

『ファーゴ』と違うのは、映画の展開の中で人々が関わっていくうちに、多数のキャラクターの人間性の裏面が明らかになってくる群像劇というところだろう。

そしてストーリー自体についても、単に米国中西部の田舎町の保守的、排他的雰囲気を描くというようなものではなく、住民の中にもさまざまな意見があり、違う人々が関わり合っていくうちに、町のイメージも徐々に複雑な様相を見せ始めるといった面白さがある。
ラストで主人公とクビになった警官がレイプ男を制裁しに出掛けるところで、「奴を殺すかどうかは行く途中で考える」ことにしたのは、一種の救いと言えようか。

徒然草枕