劇場公開日 2018年2月1日

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「もがき苦しんだその先に・・・」スリー・ビルボード yuriさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0もがき苦しんだその先に・・・

2020年4月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

この映画について事前に知っていたのは、母親ミルドレッドが、レイプされて殺された娘の事件の捜査が進まないことに業を煮やし、町はずれの道路に3枚の看板広告を立てる、という事だけです。娘の為に精力的に行動する母の愛、というシンプルなテーマかと思っていたら少し違いました。

アメリカ南部の寂れた、一見のどかに見える町には色々問題があり、人種差別、偏見、偽善者の事なかれ主義、人々は問題から目を逸らしていた。
「ここの警察は黒人だけを殴るんじゃないのか」というようなセリフがあります。また、神父に母親が「少年がどんなに犯されてもあなたは見ないふり」と言うセリフ。娘が犯されたのに敢えて少年、と言ったのは、「スポットライト世紀のスクープ」という映画で観た、実際にあった聖職者による子供への性的虐待事件を想起させ、この映画はアメリカが抱える様々の問題を描いていると思います。

一方、ミルドレッドにも問題があり、娘に最後にひどい言葉を投げかけた事に苦しんでいた。(しかし、あの道、夜は真っ暗で、徒歩なんて考えられない。私が娘なら友達に迎えに来てもらうか、出かけるのを止めますが)母親の警察への怒りは、そのまま自分への怒りでもありました。警察署長を始め一部の人間は心を寄せてくれるものの、町の人達や娘の父親である元夫にさえ中々理解してもらえず、母親は孤立していき、互いに傷つけ合う・・・その対極の無垢な存在が、馬や、寄せ植えの花や、若い雌鹿でしょうか。

予想したより複雑で、重い部分もありましたが、ミルドレッドの過激な行動は(犯罪だけど)痛快で、観て良かったなと思えます。
人生は過ちと後悔の繰り返し、でも悪いことばかりでもないです。

ゆり。
NOBUさんのコメント
2021年5月13日

今晩は。
 フランシス・マクドーマンドさんの演技へのコメント
 ”一人でいるシーンをずーっと見ていられる希少な俳優さんです。”
 全く、同感です。
 極少ない台詞と抑制した演技で、屹立した存在感を醸し出せる俳優さんは、私は本物だと思っています。
 時節柄、映画公開がドンドン延期になっていますが、県境を越えず自家用車で行ける範囲で(公共交通機関は使わない・・)観たい映画を少しづつ観ようと思っていますよ。(けれど、外では食事を一切取らないのでお腹が減りますが、却って感性が覚醒した状況になるなあ・・、と思っています。)
 ”明けない夜はない”という言い尽くされた言葉を信じて・・。

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年5月12日

今晩は
 私事ですが、私が今作を鑑賞したのは、出張先の映画館でした。非日常の中の非日常の空間で観た事もあり、とても印象深い作品でした。
 今作の原題は「ミズーリ州エビング市郊外の三枚の広告看板」というそっけないもので、冒頭からミズーリ州の郊外の都市の寂びれた感が印象的でした。そして、めったに車が走らない道の脇に立つ寂びれた広告看板。
 そこに、娘を殺され、町の警察の対応の鈍さに怒りを隠しきれないミルドレッドが掲示した紅蓮の炎のような、強烈な怒りのメッセージ。
 それに対して、病を抱える警察署長ウィロビーの淡々とした哀しみを抑えた対応そして自死、暴力的ながらもどこか稚拙な、良い年をして母親と暮らすディクソン警官。
 作品から強烈に立ち上っていたのは、現代アメリカの繁栄から取り残された深い鬱屈を抱えた上記3人の姿だったと記憶しています。
 近作の「ノマドランド」でも描かれた現代アメリカの閉塞感を見事に提示した作品だと思いました。
 特に印象的だったのは、全く笑わないミルドレッドが、ビルボードの周囲に植えた花の世話をしている時に不意に現れた小鹿の姿を見た時に見せた亡き娘が現れたかのような優しい笑顔でした。
 初鑑賞から3年が経ちますが、細部まで覚えている映画は稀で、上記3人を演じた役者さんたちがオスカーを受賞した事も嬉しく思った作品でした。

NOBU