「賞云々知らずに観たら」スリー・ビルボード うにたん♪さんの映画レビュー(感想・評価)
賞云々知らずに観たら
自分としては久々の良作。
娘をレイプされた上に焼き殺されたシングルマザーの怒りから始まっていくのだが、そこから関わっていく人間とその人物の立場、心情をゆっくり見せていってくれる。
そもそもはレイプ殺人の犯人が一番悪いのであるが、行き場のない怒りで警察署長を非難する看板をブッ立てる母親ミルドレッド。
このあまりにも重い非難の看板が署長ウィロビー、部下ディクソン、看板屋ウェルビー…と関わる人物全てに影響を与えていく様はじんわりと進んでいく悪夢のようだ。
犯罪被害者遺族の想いは取り上げられる事が少ない理由も分かるが、悲しみに対してどう折り合いをつけるのかは様々で、ミルドレッドは復讐に燃えて法を越え、息子は忘れたいと苦しむ。
対して署長ウィロビーの苦悩も大きい、責任者として受けて立たねばならず、部下達は人種に差別的、暴力を振るう問題警官が多く、自身も末期ガンで余命少ない状況で事件もガンも解決困難、吉本新喜劇でもない限り都合よく解決しない。
出てくる人々は全くの善人ではないが、著しく悪人でもない普通に市井で暮らしている人たちばかり、ボタンの掛け違いが連続して物語が各々に重苦しい気持ちになっていく様が理解できる。
その結果、物語を追っていく観客として、それぞれの気持ちに共感してしまい、落とし処をどうしたらと悩んでいる内に物語に変化が起こるため、「これからどうするんだ?」と次の展開を追わされてしまう。
ラストは衝撃ではないが、行き場のない怒りの向けようとしては納得出来る。
この展開が嫌いな人には勧められないが見応えはあった。