「魂の贖罪と救済」スリー・ビルボード REXさんの映画レビュー(感想・評価)
魂の贖罪と救済
この映画のテーマは何だろう。
陳腐な言い方をすれば、魂の贖罪と救済ーーということになるのだろうか。
ディクソンという、どうしようもなく無知な男を通して「人に認められること」がいかに人を変えるのか、ということをつくづく考えさせられた。
自分の国の軍隊がどこの国に派遣されていたかも知らないほどの、無知。そして彼を精神的に支配している母親はまごうごとなき差別主義者。でも彼にだって刑事を目指そうとした純粋な動機はあるわけで、署長はその点を見抜いていたんだろうと思う。
この映画を単純な構図にしていない、署長とミルドレッドの不思議な連帯感。一方は突然娘を殺された悲しみ、一方は突然余命宣告された悲しみを抱える。ある意味、世の中の理不尽さに対して闘う同志のようなものとでもいおうか。
突然舞台から降りてしまった署長の死は大勢の感情を掻き立て、たくさんのすれ違いを引き起こす。
しかし、ディクソンとミルドレットに心に変化をもたらしたのも、また署長の死によるものだった。
ミルドレットが頑なに周囲と壁を作っているのは、世の中に対しての怒りだけではなく、自分自身に対しての怒りでもあった。 娘の死に責任を感じ、自分は幸せになってはいけないとでもいうように、周囲に敵意をまき散らしていく (でも歯に衣着せない言動、個人的にはスカッとしまくり)。
そのことを理解していた署長は看板の広告費を肩代わりしていた。この場面は深く心を穿つ。
ミルドレットとディクソンの言動に批判や非難を加える前に、受け手が立ち戻らなければいけないのは、何が悪いって、捕まっていない犯罪者が一番の悪。
ディクソンとミルドレッドの旅がどういう終着点を迎えるのかはわからない。
まさか二人が本当に必殺仕置き人をしにいくわけではないだろう。
でも生きるためには目的が必要であり、それがただのポーズであっても、正しい動機のために歩み寄って行動を起こすことこそが、二人には必要だったんだと思う。
だからこそ、ミルドレットの最後の笑顔に救われる思いがした。
ウッディ・ハレルソンしかり、全員の演技がすべて賞をあげてもいいくらい上手かった。元夫の19歳の恋人の、あのイラつく演技もいいアクセント。
繊細で大胆。いい映画だった。