「不寛容に満ちたアメリカ」スリー・ビルボード 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
不寛容に満ちたアメリカ
アメリカはメイフラワー号での上陸以来、フロンティアスピリッツという名の先住民虐殺を経て建国し、農業のための奴隷をアフリカから大量に輸入した歴史を持つ歪んだ国である。差別と殺人がアメリカの特徴なのだ。その歪んだ国の中でも特に差別の激しい片田舎を舞台にしたのが本作品である。
ムラというのは村八分という言葉に代表されるとおり、共同体の利益や風習に背くものを迫害する。価値観の多様性を認めず、異分子の存在を許さない一元主義なのだ。アメリカは国全体がムラである。しかも銃社会である。銃を使って異端を排除してきた歴史がアメリカの精神性に深く刻み込まれている。
登場人物たちは根っからの悪人という訳ではないが、ムラ全体を覆う差別意識と一元主義に人格をスポイルされていて、他人を許さない人間ばかりだ。しかし物語が進んでいくと、少しずつ互いを認め合う部分が現れてくる。まだまだ希望と呼べるほどの代物ではないが、僅かながらその兆しはある。
自分だけ得すればいい、今さえよければいいという、不寛容に満ち満ちた現代のアメリカにあって、この映画の存在価値はもしかすると大きいかもしれない。
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