「自分のこともあなたのことも、まだまだ知らない。」スリー・ビルボード だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
自分のこともあなたのことも、まだまだ知らない。
スリービルボードにはやられたのです。はいはいこういう人ね、と思いながら見ていた先入観をぐわんとぶっ飛ばされ衝撃を受けました。
私はまだまだ無知。自分のことも、人のこともまだまだ知らない。そう思いました。
知っていたけど、人は一面ではなく、美しさ、脆さ、強さ、弱さ、醜さなどをまだらに抱える切ないいきものだ、ということを改めて突き付ける物語です。
ほとんど地獄であるこの世界から、生きていくために胸に留めておきたい希望ってやつを、あたしはスクリーンから見つけたいんだ、と改めて思いました。
被害者遺族の見せる傲慢。小者な刑事が人の優しさに震えて良いことをしようとする瞬間。部下思いで家族思いだけど彼が選択したのは自殺。
ミルドレッドにも、署長にも、ディクソンにも、わかるよという気持ちと、それはあかんのじゃない?と思う気持ちとがあって、総合すると愛おしくかんじる。
ディクソンはスリービルボードで出逢わなければ毛嫌いして終わりの人物だけど、こうやって描かれると、彼に寄り添いたい気持ちがする。脚本の妙なんだろうかね。
特に支配的なママとの関係辺りに。
成人男性が、力で絶対ねじ伏せられる(やったらあかんけど)老親のいいなりになってしまう程の虐待って、相当だと思う。対決したら勝てるのに、やろうとする地点に立てない程、自分を認められないディクソンが、家の外で悪態を吐く。これは必定。避けられない。
ディクソンが署長の手紙を読んでいるシーンと、入院先で自分が怪我させた広告社の彼(彼かわいい)にオレンジジュースをもらって、あってなったところが、忘れられない。
砂漠で見つけたオアシス?地獄に仏?そんなやつ。
ミルドレッドとディクソンが旅立つラストはきらめきを感じた。向かう先に何があろうとこの旅立ちをえらんだあなた方は多分何かに勝利した。
ミルドレッドのひとりになるとちょっと乙女な感じで、よかった。