「難民問題啓蒙映画」はじめてのおもてなし kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
難民問題啓蒙映画
ギクシャクしている家族の中に純朴な難民がやってくることで家族の絆が深まって行く…というベタなハートフルコメディであり、それがまた本当にベタで大雑把な展開なので中盤までは実に苦痛でした。「マズい映画を選んだ、邦題がすべて平仮名である段階で気づくべきだった」と後悔してました、中盤までは。
主人公のナイジェリアからの移民ディアロは品行方正で、天使のような善人です。その佇まいにリアリティを感じられず、批判的に観ていましたが、中盤で語られるディアロの過去にムードは一変しました。
難民になることを余儀なくされたディアロの壮絶な過去。そのプロセスを詳細に知ったとき、心が潰れそうになりました。恥ずかしながら、ボコ・ハラムのことは名前くらいしか知らなかった。
「難民」というビッグワードで語ると、どうしても偏見が入り込んでしまうが、ひとりの人間として相対すると、印象は異なっていきます。
おそらくドイツでは、「難民を偏見なく受け入れましょう」的なスローガンが掲げられていると思われます。でも、異質な存在が入ってくるんだから、偏見持つにきまってます。しかし、このような映画で、難民であっても我々と同じ人間なんだ、という当たり前だが忘れがちなことを思い出させてくれる。そして、この作品の柔らかいタッチは、家族で観やすく若年層に影響を与えやすいと思われます。
なので、本作品は啓蒙映画だと思いました。ほぼ同じ時期に公開されていた難民映画「希望のかなた」を撮ったアキ・カウリスマキは上手くいかないだろうが啓蒙的なニュアンスを入れたかった、みたいなことを言っていたと思います(ウル覚えですが)。ヨーロッパでは本当に切迫しているのでしょう。どこまで上手くいくかはわからなくても、全力を尽くして共存を目指さねばならないのだな、と感じました。
本作は本当に雑で、リベラルっぽい雰囲気のクセに古臭い価値観を押し付けてくるなど、興醒めしっぱなしです。ギャグも寒いし。だが、ディアロの過去だけは丁寧に描いてます。その結果ディアロの品行方正さにリアリズムが生まれました。難民問題啓蒙映画としては上手くいってる部類に入ると思います。
難民映画というジャンルができてきていると思いますが、やがてグッと成熟した作品群が生まれてくると思います。本作は黎明期に問題提起した作品として歴史的に残っていくような気がします。
(一方、希望のかなたは黎明期でありながら名作、さすが巨匠カウリスマキ、として語られるでしょうが)