「山椒は小粒でもピリリと辛い」点(2017) 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
山椒は小粒でもピリリと辛い
yongieなる女子2人組のロックバンドと主演の山田孝之の個人的な関係から始まり、主題歌になった「ワンルーム」を元に本作を制作したのだとか。
以上は後付けの情報なので、正直歌自体は全く印象にない。
主演の山田を別にすると、筆者の注目すべきは監督と脚本を兼ねた石川慶である。
妻夫木聡を主演に迎えたいわゆる「いやミス」である彼の前作『愚行録』が相当に面白かったからだ。
その際原作小説も読んだが、妻夫木が演じた主役?を登場させずに彼の周囲の各証言者の語りだけで構成された原作をよくぞ映画化したものだと感心した。
同作では、撮影監督は石川がポーランドで共に映画を学んでいた同窓生のポーランド人であり、こちらも良い意味で日本人の感覚ではない画面構成が作品にとてもハマっていた。
本作の撮影は鈴木慎二という日本人カメラマンだが、「藤太軒理髪所」という名のレトロな理髪店が登場するなど全体的に古い日本の情景が映し出されるので作品の内容上今回は日本人で良かったと思う。
大言壮語していたのに結局は父の死をきっかけに家業を継いだ山田演じる高志と絶賛不倫中の中村ゆり扮するともえ、高校時代に元恋人だった2人が理髪店の主人と客となって邂逅を果たした一瞬を捉えた短編作品である。
甘い物が苦手なのに何度もバウムクーヘンを食べさせられて山田自身は大変だったようだが、輪に沿って食べる癖が昔から変わらないことで2人の関係性を示すという監督石川のさりげない妙技が見える。
「タカシくん」なのか「タカちゃん」なのか細かい所から過去を想い出す2人、昔切ったともえの前髪を急遽今回も切ることにする高志の気持ちの変化など、お互い終始男女として意識し合ってはいるが、これ以上は進展させられないこともわかっている。
ではともえはなぜ理髪店に訪れたのか?
決して若くもないのに妻子ある男性と不倫中の自分自身に疲れてふらっと立ち寄ったのか?
表札であっさりと高志が妻子持ちなことはわかってしまう。
もし運良く?運悪く?高志が現れなかったならそのまま帰っただろうとも思えるし、もし表札から高志が独身だとわかれば彼女はどうしたのだろうか?
高志も結婚生活がうまく行っているかは疑わしい。
もしかしたら妻子と別居中の可能性もある。
組み変えたともえの足を鏡越しにしげしげと眺める高志は長く女日照りが続いているとも取れなくもないし、妻子の話に詰まるところもあやしい。
不格好な前髪なのに笑顔を見せるともえと、床上に切り落とされたともえの髪を掃き集める高志、まさかやけぼっくいに火が点くことがあるのか?
余韻を残したまま物語は終わる。
ともえ役の中村は筆者の世代だと「YURIMARI」のYURIだったことに少なからず驚くが、井筒監督作品の『パッチギ! LOVE&PEACE』に出演してまさに自分の出自さながら在日朝鮮人の女優を演じたことで筆者も彼女を知るようになった。
ただ前作の沢尻エリカの役を引き継いだので、どうしても沢尻と比べられてしまい、強い印象を残せなかった。
綺麗ではあるが少し影があるようにも見えて、全体的に不運な感じのする女優でもある。
なお山田と中村はTVドラマの『勇者ヨシヒコ』シリーズでも共演している。
本当にあっという間に本作の上映は終わってしまうが、短編として味わい深い作品である。