「見えるものと、見えないもの。」Vision 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
見えるものと、見えないもの。
幻の薬草「vision」とはなにか。
ミステリアスな主題をジャンヌとともに観客が探していくような映画だ。
「今がほんとうに今なのか。過去か未来かわからなくなる」
「幸せはそれぞれの心の中にある」・・
映像美とともに、いくつかの台詞がすっとこちらの心に入ってくる。だからと言って、スピリチュアルなものを感じている、というわけでもない。そんな癒しを求めてもいない。ただ、『自然への畏怖』は強く感じてくる。
そんなころに、アキ(夏木マリ)が初めて会ったジャンヌに向かって「やっと会えた」という。この言葉と雰囲気に、訳も分からず涙が流れた。え?なんで?夏木マリの演技に吸い込まれたのか?
もう自分でも意味不明。
人里離れた奥山に訪れた異人。
突然現れた若者。
山にこだまする子供の声。
真っ暗なトンネル。
何物とも混じることのない素数。
1000℃の炎がpainへと変わりゆく過程・・・。
ふと気づく。人も音も台詞も風景も、なにかのメタファなのか?
目に見えるものと、見えないもの。真の姿を現したものと、姿を変えて現れてきたもの。
太古より延々と繰り返されてきたもの。必ずやって来るもの。
破壊と再生。
輪廻転生。
異質物との融合。
過去と現在と未来、という時間。
自然と文明。
人間と神様。
登場する人はそれぞれ、「なにか」を擬人化した存在なのか、と。
(なお、岩田という役者の登場に異物感を感じた。しかもその時だけわざとのように大手アパレルメーカーロゴ入りのアウターを着て、寡黙な智も楽しげに談笑していた。これもメタファなんだと思えば納得できるシーンだ。)
まったくもって解釈を観客に委ねた意欲作。「あん」や「光」ほど親切ではなく、観るものを試しているようだ。こっちはまるで、一幅の現代絵画の前に立たされてしまった気分。
どう解釈すべき?
自由に感じればいいの?
何を意味しているの?と混乱してきて、どこからかこんな声が聞こえてくる。
「あなたの”視界”には何が見えるの?見えないものも、ちゃんと見えてる?」