「遊牧民族の伝統文化と資本主義」馬を放つ ローチさんの映画レビュー(感想・評価)
遊牧民族の伝統文化と資本主義
キルギスは、日本で暮らしているとあまり馴染みのない国で、こういう知らないものを見せてくれる作品はそれだけで貴重だ。
本作は、伝統的なキルギス文化と民主化以降の資本主義的な価値観の台頭と対立を軸にしている。キルギスの伝統がどんなもので、今の社会はどんな方向を向いているのかよくわかる。
遊牧民族の伝統としての馬の大切さと、現在ではそれは資産家ばかりが所有するものであること。主人公の馬を盗むという行為は、資本に縛られた文化を解放だ。
主人公の妻がロシア語しか解さないことや、かつての映画館がイスラム教のモスクになっていることなど、キルギスが辿った近代の歴史の複雑さが何気ない描写にも刻印されている。モンゴル帝国時代にイスラムの影響を受け、ソ連の一部だったころには言語も含めロシア文化に染まった。独立後、再びイスラムの勢力が強くなるなど、そうした文化の塗り替わりの痕が垣間見える。
自分の知見を拡げてくれる貴重な鑑賞体験になった。
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