「この映画をつくるパワーはどこから!」花筐 HANAGATAMI あしや桜さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画をつくるパワーはどこから!
尾道三部作など、大林宣彦監督の作品が大好きで鑑賞を楽しみにしていました。映像はまさしく40年前に見た「HOUSE」そのもの。真っ赤に染まる空、油絵の色彩のような人の顔の陰影、「さびしんぼう」のような映画とは全く異なる独特な大林ワールド。演劇や歌舞伎のような舞台転換、絵コンテを忠実に再現したカットの連続に圧倒されます。3時間近いこの映画の脚本、画面構成、CGなど、制作にかけた情熱と労力、時間は計り知れません。まさしくガン余命宣告を受けた大林監督が、命を削って作り上げた映画と言っていいと思います。東京でも有楽町スバル座での単館上映でしたが、もっと多くの人に見てもらいたい映画です。魂の叫びが聴こえる人も多いでしょう。映画館は大林ファンと思われるご年配70歳代の方が多く、お見受けしたところ80歳代の方もいらっしゃいました。ストーリーは理解出来ない部分もあり、再度見直す必要がありますが、圧倒的な画像が脳裏に刷り込まれます。所謂サブリミナル効果というものでしょうか。後からジワジワとくる映画ですが、何度か見直すとまた違ったメッセージが次々と現れそうで、奥深い作品です。但し、人によってハッキリと好き嫌いが分かれると思います。興行収入を気にして、万人受けする映画作りをする風潮にも一石を投じる映画です。1ヶ月余りで公開が終了してしまいますが、この作品の良さは劇場ならではなので、リバイバル上映する映画館が続々と出てくることを期待しています。あとこの映画が好きな方は、「十六夜荘ノート」(古内一絵著、中公文庫)という本をぜひ読んでみてください。大戦前夜の青春群像を描いた傑作です。最近文庫化されました。芸術に生きた若者たちが還らぬ戦争に駆り出されていく…、戦争に人生を翻弄された主人公の大伯母が、守り抜いた十六夜荘に込められた想い。花筐では常盤貴子演じる女主人が、この大伯母を彷彿とさせます。この映画も小説も戦争に翻弄された青春があったことを忘れないで欲しいという、監督や作者の想いが伝わってきます。