「"桜良"と"僕"、"恭子"の"3人の未公開シーン"を楽しめる感覚」君の膵臓をたべたい Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
"桜良"と"僕"、"恭子"の"3人の未公開シーン"を楽しめる感覚
"キミスイ"劇場版アニメである。原作を知ってても、実写版を観てても、やっぱり泣ける。オチは同じなのに。
原作小説については言わずもがな。2016年の文芸書ジャンルのベストセラーであり、昨年、浜辺美波主演で実写化されると35.2億円の大ヒット。日本アカデミー賞でも優秀作品賞に輝いた。
泣けるとはいえ、"実写版の翌年にアニメ版を?"という疑問はある。実写版は"東宝"、アニメ版は"アニプレックス"である。"映画化"や"アニメ化"といった許諾はメディア別だから仕方ないともいえるが、アニメ化の企画は、原作小説の発売直前の2015年に決定していたというから、東宝に追い越されてしまったのは、"パワープレイ"か?
また、リメイクなら10年くらい空けるのが商売のような気もするが、アニプレックスは自社で「心が叫びたがってるんだ」(アニメ2015年→実写2017年)のリメイクをやっており、良くも悪くもそういうマーケティングを是としているようだ。
そんなこととは関係ないと思うが、アニメ版は、実写版とストーリー構成が異なる。どちらかというと原作に近いが、アニメ版にはアニメ版のオリジナリティがある。
昨年の実写版は、"女優・浜辺美波"の存在感を知らしめたともいえるが、それ以上に脚本家・吉田智子がキモだ。
吉田脚本による"キミスイ”は、エピソードがスマートに再構成されていることと、"桜良"と"僕"の高校時代の話を振り返っているので、12年後の遺書というミステリー要素が新たな感動を加えている。
実写版では、サン=テグジュペリの「星の王子さま」を貸し出すきっかけが異なり、無くしてしまうエピソードがある。また、重要な伏線である"通り魔事件"を、より印象付けるため、序盤で"桜良"自身に語らせている。
吉田氏といえば、少女コミック原作を原作とする恋愛映画を多く担当しており、なかでも、同じく原作を改変した「カノジョは嘘を愛しすぎてる」(2013)の脚本が秀逸だ。原作コミックの世界観を引き継ぎつつ、当時連載中だった原作とはまったく異なるオリジナル脚本で映画はヒットしている。それらの実績からか、2017年のNHK連続テレビ小説「わろてんか」で脚本に抜擢された。
さて話を戻す。アニメ版のオリジナルであるが、まず「自転車をぶつけられた(?)おばあちゃん」のシーン。これによって"桜良"の正義感と社交性を強調することに成功しつつ、逃げ込んだ喫茶店がラストで、"僕"が待ちぼうけする場所になる。
そして、「病院から抜け出した高台での花火」のシーン。これは単純にアニメ的に美しい。こんな穴場スポットが知られていないというのは不自然だが、"二人きりで花火を見たかった"という"桜良"の願いをかなえる、ひとつの見せ場になっている。
原作者の住野よる氏が監修に加わっているので、アニメ版も原作者お墨付きのオリジナルである。
"桜良"と"僕"、"恭子"の高校生活にはもっともっといろんな思い出があったはずで、"3人の未公開シーン"を見るような感覚で楽しめると考えれば、その価値は無限である。
さらに連続ドラマで、新エピソードを加えることもできるわけで、それこそ、10年後の楽しみかもしれない。それほどまでに、普遍性のあるストーリーだ。
(2018/9/1/TOHOシネマズ日本橋/ビスタ)