「動き出す歯車。圧倒的説得力。」デトロイト Sakikoさんの映画レビュー(感想・評価)
動き出す歯車。圧倒的説得力。
やっと観られた、ビグロー新作。
相変わらずの徹底的なシリアス路線。拷問シーンでは至近距離でのカットと早割りで物凄い緊迫感。無駄な脚色を省き、俳優の息遣いや、壁へ当てた額に滲む汗、そしてしたたる血の質感までがこちらに伝わってくるようなリアルな演出。凄惨な現場を決してエンタメに走ることなく描き、スクリーンから放たれる圧倒的な説得力に終始たじろぐ。黒人俳優達の演技も素晴らしく、ジョン・ボイエガはSWとは打って変わってセリフ少なめの役柄をリアルに渋く熱演。白人警官役のウィル・ポールターも、個人的にナルニアのイメージが強かったがすっかり大人になっていて、狂気の白人警官役を素晴らしい熱量で演じきっていた。(個人的には、脇役のような感じでサラッと出演していたアンソニーマッキーが良かった。あとはゲームオブスローンズでも有名なハンナマリーも)
ビグローらしく社会派なメッセージを一身に纏った作品。表向きでは人種間の平等を謳いつつも、未だ根強い黒人差別が蔓延っていた1960年代のアメリカが舞台。白人社会の圧迫に反発した黒人による暴動の最中に、デトロイトのアルジェ・モーテルで起こった市警による一般人への殺害・暴行・拷問事件を描く。爽快感なぞ一切ない、むしろ観るものの心へ大きな影を落としてくるような物語。結末でわかりやすく直接的な答えを提示するタイプの映画ではない。当事者の証言を元に綿密に構築されたという事実とこの映画の存在そのものが、現代人に対する一種の問いや警鐘としての役割を果たし、「デトロイト」という作品に魂と意義を与えている。巨大で不条理なこの社会の中で、弱者と強者の間に壁を築くことの危うさ。動き出してしまった歯車は決して元に戻る事はなく、小さな暴力がやがて巨大な狂気と化し、市民のタガを外し、罪なき者の命が奪われる。少数派差別撤廃の風が吹き始めつつも一方でアメリカでは民衆の手によって素人の保守派政権が誕生した21世紀。そんな今だからこそ、歯車が回される前に、作る価値のある映画だったと思う。