「『分かり易い嘘』」あしたはどっちだ、寺山修司 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
『分かり易い嘘』
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1975年4月19日東京阿佐ヶ谷で繰広げられた市街劇『ノック』。アバンギャルドでアナーキーな実験野外パフォーマンスを策略した稀代のクリエイター寺山修司の伝記的ドキュメンタリーが本作品である。
勿論、天井桟敷だけに留まらず、文芸的才能やマスコミへの露出、そして有名な『のぞき魔』事件での世間への騒がし等々、この人のやることなすことにその頃の日本は常に注目をしていたようである。今現在、そんな人物は日本では存在していない。一寸前ならば、『とんねるず』みたいなものか。その破天荒さは『演劇で人を変革していく』という策略の元、影響を与え続け、その意思を継いだ芸術家、芸人等々、今現在でも一線で活躍している人も多いと聞く。そんな人物の実際の素顔や出自を赤裸々に紹介することで本作の構成は成り立っている。
ただ、ハプニングを企てる一人の男の深い闇の部分を掘り下げきれなかった感想は残ってしまう。確かにベースは大変複雑な家庭環境であり、そんな中に於いて早熟な知性は青森という地方では持て余すことであっただろう。しかし、その足跡をなぞるようには進むが、どうしても人ごとみたいな遠い存在を感じてしまい、共有するモノ、思いを汲み取れるモノが浮かんでこなかったのは残念でならない。現在日本の閉塞感のカウンターとして、今作品の意義はあるだろうが、寺山個人のどす黒い闇をもっと解き明かしてほしかったのである。身近にいた奥さんもお亡くなりになられた現状ではそれも宜なるものだが・・・もう少し、今だから寺山を思い出そうという気概を与えて欲しかったと感じてしまった。
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