「気持ちだけで、人を救える方法ありますか?」キセキの葉書 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
気持ちだけで、人を救える方法ありますか?
タレントの鈴木紗理奈が、マドリード国際映画祭で"最優秀外国語映画主演女優賞"を受賞した作品。
彼女が"女優"ではなく、"タレント"と紹介されるのは、露出頻度の問題だけだが、国際的な映画賞とのギャップは、話題性十分である。折しも、フジテレビ「めちゃめちゃイケてる」の放送終了が発表された週末、本作は初日を迎えることになった。
でもコレ、配給が弱く、東京都心で映画館を探すのが大変。全国上映館は郊外ばかりで、さらに上映が1日1回だけとか。しかしむしろ、口コミでロングランするかもしれない逸品。
これは実話ベースの映画である。
鈴木紗理奈が演じるのは、主婦・原田美幸。阪神淡路大震災からの復興ムードの兵庫県西宮市の団地に家族で暮らしているが、脳性麻痺を抱える5歳の娘の介護と、長男の育児で心身ともに追い込まれている。
そこに大分の実家に住む母が、うつ病と認知症を併発。娘の介護もあって実家に戻れない美幸が始めたのは、毎日、絵ハガキを送ること…。
美幸の絵ハガキは手書きで、たわいのない日常が描かれており、クスッと笑える。
そんな絵ハガキが、徐々に母の病状を改善させていく。その数はなんと13年間で5,000枚に及んだ。本作はその過程を描いている。
介護は、とかく"専門家のサポートや専門施設"といった解決方法と短絡的に結びついてしまう。それは仕方のないことだ。しかし、この映画は、困難なときも他人のせいにせず、前向きに生きる主人公の姿と、その驚くべき力を見せてくれる。
美幸が、同じ団地に住む女性に尋ねた言葉が印象に残る。"気持ちだけで、人を救える方法ありますか?"
女性は少し間をおいて、こう答える。"それ以外に方法はあるんですか?
美幸は、介護施設に母を押し付けることなく、また実家の母のもとに戻ることなく、自身で出来うる気持ちをこめた行動で、母の病気を回復させ、家族全員をつないでいく。
鈴木紗理奈の、まるで"地"かと思ってしまう自然体の"関西かあちゃん"に魅せられてしまう。
もうひとつ。この映画を観るべき理由。脳性麻痺の娘・望美を演じた、八百市屋 天満(やおちや てんま)ちゃん。これが演技?ぜったい信じられないはずだ。
(2017/11/5 /イオンシネマ シアタス調布/シネスコ)