「CGのレベルは向上、他はまだまだ」BRAVE STORM ブレイブストーム 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
CGのレベルは向上、他はまだまだ
「シルバー仮面」と「レッドバロン」、両者の名前と姿形だけはかろうじてわかる。
しかし両者の放送は筆者の誕生以前であり、実際の映像は観たことがない。『シルバー仮面』は主演が柴俊夫というのも驚きだ。
ハリウッドで流行しているDCやマーベルの集合ヒーロー物の大ヒットに触発されて、日本でも特撮の世界で東映が宇宙刑事シリーズや戦隊シリーズを集合させて「スペース・スクワッド」なるチームを組ませてシリーズ化を計画しているし、アニメの世界ではタツノコプロがガッチャマン、ポリマー、キャシャーン、テッカマンらのヒーローを集めて「Infini-T Force」というチームを組ませてCGアニメーション化し、タイアップで漫画化までしている。
『シルバー仮面』と『スーパーロボット レッドバロン』はともに宣弘社というプロダクションが制作した同じ特撮番組であり、時空を超えて両者がタッグを組んだのが本作である。
レッドバロン開発者の紅健一郎博士の別れた妻の旧姓が春日で、2人の間に生まれた子どものさらに子どもたちがシルバー仮面の春日光二ら春日5兄弟というとんでも設定になっている。
そのため紅健一郎は彼らの祖父であり、レッドバロン操縦者の紅健は彼らの大叔父となる。
『スペース・スクワッド ギャバンVSデカレンジャー』が演技、特撮、CG、お話の何もかもがひどかったので、本作も全く期待していなかったのだが、想像以上にCGの完成度が高かったのにはびっくりした。
ただカメラマンや画面の色調整スタッフをハリウッドから呼び寄せているのにはがっかりした。
またさらにがっかりしたのはレッドバロンをはじめキャラクターデザインをタイのデザイナーに依頼したことだ。
今の日本では日本人だけで高いレベルの特撮映画を制作できないと白旗を掲げたに等しい行為だ。
監督の岡部淳也はレイ・ハリーハウゼンのストップ・モーションアニメが好きらしい。
筆者もハリーハウゼンが特殊効果を担当した映画が好きでその殆どを観ている。
たしかに元々のレッドバロンの頭は大きく、全体的にも丸みを帯びてずんぐりむっくりした形状をしていて、本作のがっしりとしたレッドバロンとは似ても似つかない。
シルバー仮面も強化前のR1スーツは元々のデザインを所々活かしているように見えるが、強化後のR2スーツは装甲が厚くなって全くの別物になっている。
本作の両者のデザインは現代的に洗練されて進化しているが、だからと言って海外のスタッフを起用するのは何か釈然としない。
CG処理も含めてあらゆるところにお金がかかっているため目を眩まされているだけで、アベンジャーズもジャスティス・リーグもお話自体は単純で子供騙しである。
本作も物語は単純でハリウッド大作とそれほど差はないように感じる。
ただ俳優において埋められない大きな差がある。
まず演技力である。
相対的にハリウッドに比べて日本の俳優の演技力は劣る。特に体も動かせる上に優れた演技のできる俳優が少ないので、自然とアクション映画では演技力かアクションのどちらかが犠牲になることが多いように感じられる。
またそもそも邦画は世界展開が期待できないので大きな予算を集めづらく、自主的にトレーニングするのでなければ何ヶ月も前から俳優が体造りができる環境にないため、アクション自体もこぢんまりとして迫力がないことも多い。
春日光二役の大東駿介はそれなりに演技力もあってアクションも悪いとは思わなかったが、紅健を演じた渡部秀は仮面ライダーの主役だった割にはアクションシーンでの身のこなしに説得力がなく下手クソに感じた。
また演出の問題もあるのか直情径行ですぐに切れる演技は観られたものではない。
そしてハリウッド俳優に逆立ちしても敵わないものがもう1つある。
俳優の面構えである。
善し悪しは別にして、戦争を含めた暴力に常に接している国家に住む俳優と平和ボケした国家に住む俳優では顔付が全く違う。
顔の美醜に関係なく『七人の侍』の7人は実にいい顔をしている。
三船敏郎や木村功など実際に戦地にいた俳優もいるし、少なくとも戦争とはどういうものかを全員が身をもって知っている。
もちろん現在の日本でも演技を重ねていくことで後年になって顔に渋みを増していく俳優はいるのだが、毛嫌いして軍事を真剣に考えることのない今の日本の風潮では自然と獲得するのは難しいと思う。
いくら架空の物語とはいえ、現実的に戦う面構えをしていなければ嘘くさく見えてしまう。
しかし若手の俳優の中で、整った顔をした者はいくらいても、今から戦場で闘える顔をしたは者はほぼ皆無だと思う。
ずっと最悪の状況下で戦い続けていたはずなのに、タイムスリップした春日3兄弟の顔付はあまりにも軽すぎる。
筆者が日本の作品でもっとも物足りなく感じるのはこの点である。
最後に静弦太郎役の寺脇康文が登場する。同じ宣弘社制作の特撮番組『アイアンキング』の主人公らしい。
続編に含みを持たせているので、もし次回作があれば観てみようと思う。