「4月2日は世界自閉症啓発デー」月子 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
4月2日は世界自閉症啓発デー
高崎映画祭にて
かなり厳しい、メンタルを深く抉る作品である。かなり強い広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)を患っている女性と、父親に恵まれず、それ故に死のうとする父親を見殺しにした男との偶然の出会いからのロードムービー(冒険譚)がプロットとなっている。テーマは『純粋との邂逅』。
発達障害とはつまりピュアな精神を保ち続けること。故に実生活、実社会では溶け込み難い、かなり異質な異世界的対立になってしまう。しかし、だからこそまるで地上に舞い降りた『天使』の如く、社会に適用している人間に、その貴さを確認せしめる対象でもある。そんな『天使』役を担った本作品の女優さんの素晴らしい演技は正に称賛以外に表現しようがない。かなり研究したであろうその振る舞いは、『スペクトラム』の意味のように、その症状の広さを巧く作品に成立しえるギリギリの演技レベルに落とし込んでいる。シーンによってはかなり冗長なりうるその障碍特有の仕草も、それだけ狙った演技であろうことは容易に想像出来る。大変痛々しく、そして、大変愛すべき演出なのである。背中に拡がる痣、施されていたであろう性的暴力、そのどれもが今日の社会問題をきちんと織込んだ内容であり、それが痛々しくも演出としてきちんと表現している。対照的に男の演出も又、父親や社会を憎む態度が徐々に溶かされてゆく演技も又、見事である。しかし、女優には敵わないが・・・・ 渋谷の交差点を見下ろしながら、主人公の天使が発する『みんな、迷子ですよ』のつぶやきは、相当心を揺すぶられるキラーワードである。
愛知にいくと思っていたのが、福島だったのは自分の勘違いだったのかもしれないが、女の小さい頃の服に縫い付けてあった住所が読み取れなかったのはアングルのせいかなと一寸残念であった。いずれにせよ、オチが女の家族自体が震災で津波に浚われてしまった、結局二人とも天涯孤独だったということに一定のカタルシスが得られ、ラストカットの渋谷スクランブル交差点での手を繋いでのショットは胸を熱くさせた。かなり秀逸な作品である。