「Don't you forget about me. ベイが抜けるだけでこんなに爽やかな映画になっちゃうの!?」バンブルビー たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Don't you forget about me. ベイが抜けるだけでこんなに爽やかな映画になっちゃうの!?
ロボット生命体”トランスフォーマー”たちの戦いを描くSFアクション『トランスフォーマー』シリーズの第6作にして、オートボットの戦士バンブルビーをフィーチャーしたスピンオフかつ前日譚。
時は1987年。鬱屈した日々を送る少女チャーリーは、18歳の誕生日に打ち捨てられていた黄色いビートルを譲り受ける。機械弄りに長けた彼女はそれを自ら修理して愛車とするのだが、なんとそれは惑星サイバトロンから送り込まれたトランスフォーマーだった…。
主人公チャーリー・ワトソンを演じるのは『はじまりのうた』『スパイダーマン:スパイダーバース』のヘイリー・スタインフェルド。本作のエンディングテーマも手掛けている。
バンブルビーの声を演じるのは『インターンシップ』『メイズ・ランナー』シリーズのディラン・オブライエン。
シリーズの監督を務めてきたマイケル・ベイは、本作では製作のみを担当している。
製作総指揮はスティーヴン・スピルバーグ。
良くも悪くもマイケル・ベイがフルスロットルでぶっ飛ばしまくっていた『トランスフォーマー』シリーズ。回を重ねる毎にあらゆるベイ要素が過剰になっていったが、第5作『最後の騎士王』(2017)ではそれがついに限界を突破。常人では理解不能な域に到達してしまった結果、興行的にも批評的にも大コケしてしまった。
その失敗もあってのことだろうが、今作ではシリーズの舳先を全く別の方角へと向けた。時系列を80’s、つまり「トランスフォーマー」というおもちゃが生み出された時期に合わせる事で過去作との区別を明確にし、またバンブルビーとティーンエイジャーの少女チャーリーによるバディものにする事でアクション一辺倒な作風から脱却し、ジュブナイルSFという新たな方向性を打ち出した。
時代もジャンルも変わったわけだが、なんといっても最大の変化はマイケル・ベイが監督から降板したことだろう。ベイの代わりに監督を務めるのは、名門アニメスタジオ「ライカ」のCEOでもあるトラヴィス・ナイト。アニメ畑から人材を引っ張ってくるという大胆な采配は、結果として大成功。子供を楽しませる術を知るナイト監督を起用した事により、『トランスフォーマー』は正統派ファミリー映画という本来あるべき姿を取り戻した。
ベイの降板によりシリーズの持ち味であった異常なまでの派手さと過剰なまでの下品さ、気が狂いそうになるランタイムの長さは嘘のように消え去り、登場人物が手を繋ぐのか否かにまでヤキモキするような青春の甘酸っぱさが詰まった可愛い映画へと生まれ変わった。こういった濃厚なベイ味を好む観客が本作をどう評価するのかはわからないが、少なくとも普通の映画ファン、普通のトランスフォーマーファンは本作の爽やかさを歓迎する事だろう。
本作は古式ゆかしい宇宙人居候コメディの系譜に属する。作中にも登場する『アルフ』(1986-1990)は所ジョージの吹き替えのおかげで我々日本人にも馴染みが深いテレビドラマだが、この作品が本作に大きな影響を与えていることは間違いないだろう。『E.T.』(1982)からの影響も窺えるが、これはやはりスピルバーグが製作総指揮を務めているからだろうか?
宇宙人居候コメディでありながらロボット居候コメディでもある本作。ビーの可愛さにはかなり『ベイマックス』(2014)っぽさがあるわけだが、それよりもむしろ山崎貴監督の『ジュブナイル』(2000)を思い出したのは自分だけではないんじゃないだろうか。
ビーの表情の豊かさや仕草には日本アニメの影響を感じさせる。そう言えばチャーリーのバイクの止め方はまんま『AKIRA』のオマージュでしたよね。そういう目線で見ると、今回のビーは『天空の城ラピュタ』(1986)のロボット兵っぽくもある。チャーリーが傷つけられて軍隊相手に暴れるビーの件はすごく『ラピュタ』ぽかった。
とまぁ事程左様に、先行作品を挙げると枚挙にいとまがない。このようにロボット/宇宙人とティーンエイジャーの友情譚なんていうのは手垢がついた題材なわけだが、それでいて映画が陳腐な出来に落ち着いていないのはビーのCGのクオリティの高さと、チャーリーを演じるヘイリー・スタインフェルドの演技力の高さが高次元で噛み合っているから。いやほんと、悩める青少年を演じさせたらスタインフェルドの右に出るものなしって感じっすわ。どんなジャンルの映画だろうと、いつも彼女は素晴らしいっ👏
そこに80’sの華やかなファッションとご機嫌なロック&ポップスがかかりまくるんだから、そりゃノらないわけにゃいかんでしょう!最高っー!フゥー♪
「ダムド」に「モーターヘッド」に「ザ・スミス」に「エルヴィス・コステロ」に「ローリング・ストーンズ」。チャーリーのロックTシャツええなぁ…。
シナリオは正直いってかなり緩い。チャーリーの悩みはありきたりだし、家族との絆の再生も紋切り型。
予算の問題もあるのだろうが、ジョン・シナ率いる「セクター7」の軍隊が部活動くらいの規模感だったせいで緊張感みたいなものは全然ない。ザルってレベルじゃねーぞ!!ジョン・シナ使ってる時点で絶対悪者じゃないんだし、別に軍隊との間でのサスペンスは要らなかったよね。
今回ビーと敵対するするディセプティコンは主に2体。これまでのシリーズに比べると嘘みたいな規模の小ささである。このコンパクト感が本作の良さなのだが、同時に物足りなさもちょっと感じてしまう。ベイのせいで感覚が麻痺してるっていうのは重々承知しているのだが、もう少しラストバトルに派手さがあっても良かったような気もする。
もっとシナリオを締める事は出来ただろう。ただ、このゆるさが80'sのサンフランシスコのゆるさとマッチしており心地が良いのも確か。この映画に流れる一昔前のファミリー映画っぽい大らかさはとても美点だと思う。
あれ?ビーってWWⅡでナチスと戦ってたんじゃなかったっけ?…とか、そんなことを気にしてはいけなーい!
シリーズの仕切り直しは、ベイが抜けるだけでこんなに観やすくなるのかと驚く事間違いなしの快作だった!
今回でビーとチャーリーのコンビは解消されちゃったわけだけれど、まだまだこの2人の友情を観ていたい!シリーズ化しないかなぁ〜…。
※吹き替えは残念ながらタレント声優を起用。土屋太鳳と志尊淳、オマエら腹から声出せ!!役者の基本だろ!!💢
そつか、監督変わって、テイストがひっくり返ってるんですね。
これだけ観て、トランスフォーマーシリーズを観た、感に浸っていてはいけなかったのか。
気づかせてもらったので、機会を探して、トランスフォーマーシリーズ観てみようと思います。ありがとうございました