「ユニークな着想も、ただの企画オチ」ダウンサイズ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ユニークな着想も、ただの企画オチ
アレクサンダー・ペインの映画にハズレはなし、と思っていたけれど、今回は正直ハズレだったとしか言いようがない。人工が増えすぎたこの世界で、人間の体を13cmに縮小させる技術の開発に成功。そしてそれを実践した男の悲哀と喜劇を描いたこの物語は、そのユニークな着想にグッと引き付けられるものがあるものの、蓋を開けてみると、思ったほどの可笑しさもアイロニーは存在しない。
映画が始まってしばらくすると、突然気づくことがある。映画を見始める前までは面白い着想だと思っていた「人間を縮小化させる」という設定が、いわゆる「出オチ」というか「企画オチ」のように感じられてくるのだ。これが、例えばチャーリー・カウフマンあたりが脚本を書くなりしていたらまた違っていたようにも思えるのだけれど、アレクサンダー・ペインがそのユニークな着想をそれ以上の悲劇にも喜劇にも結びつけることができず、結果「企画オチ」じみた仕上がりになってしまったような印象が強い。
視覚的に考えても、マット・デイモン扮する主人公が身体を縮小させて以降は、同じく身体を縮小させた人々の暮らすコミュニティ内における物語になるので、見ている側として身体を縮小させたことによる変化を感じにくいというのがあるし、また、物語としても、生命体としての人間の存在の是非について深淵な問いかけをしているようで、それを表現するのに人間を縮小化させることが最善の設定だったか?あるいはそれによってドラマが広がりを見せたか?と疑問が湧く。アレクサンダー・ペインの考えたストーリー自体、いつになくまとまりのないもので、物語が進めば進むほどに、支離滅裂な方向へと落下していくような感覚だった。
そんな中で、唯一画面を活気づけ、笑いと生命力を感じさせていたのがホン・チャウという女優さん。ベトナムの刑務所から体を縮小させられてアメリカへ渡ってきたという女性を実にユニークに演じていて、台詞回しから声色からすべてがユニークかつチャーミング。ホン・チャウの存在は最早この映画の良心であり救世主。彼女がいたお陰で、どうにか最後まで映画を見ることができたと言っても強ち嘘ではないかもしれないと思う。それほどまでに、135分という決して短くはない上映時間をさらにそれ以上の長さに感じ、ユニークな着想は出オチで使い捨てられ、あとは完全に迷子になったようなストーリーを見ていくことは苦痛だった。ホン・チャウがいなければ、私はこの映画をもっと扱き下ろしていたに違いなかった。