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「聖書の隠喩に満ちている」マザー! REXさんの映画レビュー(感想・評価)
聖書の隠喩に満ちている
予備知識がないまま観賞。
冒頭からいっさい名前を呼び合わない登場人物たちに、一筋縄ではいかない展開を予想。しかし旧約聖書の天地創造の話がベースになっているとは、思いもよりませんでした。
細かいところで何を隠喩しているかは全て解きほぐせませんが、ベースの話は聖書でほぼ間違いないと思われます。
ハビエル・バルデル演じる夫は神、ジェニファー・ローレンスは大地神もしくはマリア、そして楽園・大地または地球そのもの。
創造に苦悶する神は『創世記』をなぞらえ、最後に生み出した生命は自分(神)に似せた人間(アダムとリリス)。
エド・ハリスはアダム、ミシェル・ファイファーはリリスもしくはイブ。
ミシェルはイブというより、人間最初の女でアダムの最初の妻、性に自由奔放なリリスに近いと思いました(しかしアダムは劇中「再婚した」と言っていたので、二番目の妻イブかもしれません)。
アダムとリリスは楽園にいる神に会いに来る。調和の取れた楽園から追い出したい女神。しかし土から自ら生み出した人間を神が追い返す道理はないわけで、神は人間と対等に対話できることに興奮すら覚えている。
しかし女神の感じた不安は的中し、のちに息子たち(カインとアベル)がやってきて、人類最初の殺人は行われてしまう。
楽園(家)を穢され二人を追い出したのもつかの間、神はそんな欠点を持つ存在も、それを作った自分のせいだとばかりに受け入れてしまう。
ノアに「産めよ増えよ」といった神の言葉そのままに、人間の数は激増、彼らは神を求めて押し寄せる。
ここからは確信のない想像なのだが、生命の土台と調和を美しいものにしようとする女神の前に何度も現れる不気味なシミや地下の炎は地獄の業火か、次々に行われる人間の罪を表し、後半カオス状態になる家の様子は加速する人間の強欲さ、性欲に溺れ、戦争を始め、大地を汚染する人間の罪そのもののメタファーだと思いました。
ちなみに神に徴(しるし)をつけてもらう人間の姿は善き人間を選り分ける黙示録の場面のようだし、人間が奪い合っている小説の原版は「神の言葉」=モーセの十戒の原板を意味している気がしました。そして最後に産み落とされるのは勿論、イエス・キリストですよね。神はいわば、人間に殺されるとわかっていながら息子を差し出すのです。
女神をリンチする人間の姿は難解ですが、神と私だけいればいいという女神の態度は「人間など不要」と言っているのと同義なので、憎まれたのかもしれません。
いつか地球が滅びて無くなっても(ジェニファー=女神の自殺)、また懲りずに神は天地を創造するのです。
映画【ノア】で見られるように、聖書の物語を、閉ざされた空間での人間同士の緊迫したサスペンスに転化する辺りは監督の手腕でしょうが、ではかといって面白かったかと聞かれると「聖書」と気がついてしまうと面白くは無い。
【エデンの東】などのように聖書の話を現実世界でなぞらえつつ、人間ドラマに昇華しているならまた別でしょう。