ゴッホ 最期の手紙のレビュー・感想・評価
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うあああ〜〜〜
す、凄い…!!冒頭、鳥肌がブワーっと。とにかく一度観て欲しい。見覚えのあるたくさんの作品が動く、動く!
制作方法は正気の沙汰とは思えませんが、最後までやり切ったことに、ただ、ただ脱帽。完成品をこうして拝見でき本当に幸せです。ディズニーの言わずと知れた名作、白雪姫も原理は一緒。同じ作り方をしていると思うと感慨深い。
他の方も書いてますが、28歳で画家を志し、37歳で亡くなるまでの短期間に800点もの絵を描き、印象派の巨匠と呼ばれたことは本当に驚異的。しかも独学。絵が特別上手かったわけでもない。猛烈に勉強して、途方もない努力を重ねて来た末の作品たちです。
「自分の作品で人々を感動させたい。
そして深く、感じている人と思われたい。」
その気持ちを人生を通してここまで貫き通せる人がどれだけいるだろうか。
映画はフィクションではありますが、ゴッホの愛情深さを強く感じる仕上がりで素晴らしかったです。
また、実写で見るよりも人物の表情の変化がハッキリ分かるので、とても新鮮な、不思議な感覚でした。弟テオとやり取りした手紙もぜひ読んでみたいと思いました。
ただ、実際身近にゴッホがいたら、やっぱりちょっと付き合いにくいかもなァ。
この映画はゴッホへの愛か、狂気か。正気とは思えない技法で制作された、アニメーションのマスターピース。
近代芸術を代表する画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。
彼の死後に発見された手紙を弟テオに届けるため、パリへと向かった青年アルマンだったが、ゴッホに縁のある人々から話を聞くうちに、次第に彼の死に対し疑問を抱くようになる。
ゴッホの死の真相へと迫るミステリー・アニメ。
ゴッホの主治医だったガシェ医師の娘、マルグリット・ガシェを演じたのは『グランド・ブダペスト・ホテル』『ブルックリン』の、名優シアーシャ・ローナン。
6万5,000フレームにも及ぶ映像を、油絵を繋ぎ合わせることでアニメーションにする、という常軌を逸した技法で表現した、これまでに全く観たことのない芸術作品。
あまりに自分の知っているアニメーション、もっと言えば自分の知っている映画とはかけ離れた映像表現だった為、とにかく度肝を抜かれた。
あまりに凄すぎるヴィジュアルに驚くあまり、映画の冒頭は全くお話が頭に入ってこなかった😅
ゴッホのことを知らない人は居ないだろうが、彼の生涯について詳しく知っている人は少ないのでは?
ちなみに自分は「耳を切り落として自殺した人。生涯で一枚しか絵が売れなかったが、死後に評価されてレジェンドとして扱われるようになった可哀想な人。」くらいの知識しかなかった。知っている絵も「ひまわり」くらい。
んだもんで、登場人物や描かれる風景などが実際のゴッホの作品を下敷きにして描き起こされたものだと後から知ってビックリ!
「黄色い家」や「夜のカフェテラス」などの作品が、そのままアニメーションの舞台になっているって、そんな映画有り!?
常識では考えられない情熱で作られた、正にゴッホに対するラヴ・レターのような作品です。
ヴィジュアルの凄みは世界でもオンリーワンなのに対し、物語はちょっと残念。
手紙の配達なんて面倒くせーよ、というスタンスの若者が、徐々にゴッホ自殺事件に対し興味を持ち始め、だんだんと探偵のように調査をしていき、遂に真相らしきものへと辿り着くというストーリーラインは面白い!
…が、オチが弱い😔
史実の上でもはっきりとしていない事柄を扱っている以上、真犯人はおまえだっ!的な決着をつけられなかったというのはわかるんだけど、やっぱり映画的にスッキリするような結末が欲しかったところ。
同じ人物でも、観察する者によって受ける印象は異なる。ある者は礼儀正しい紳士だと言い、ある者は異常な背教者だと言う。
これは人間関係における真理であると同時に、その価値を信じる人にとっては宝だが、理解し得ない人にとってはガラクタだという、芸術というものに対するメタファーのようだ。
探偵のように振る舞うアルマン。ゴッホの死後に彼の身に起きた悲劇を追及する彼に対し、渡し船の主人が生前彼に対して良き友人であったのかと問い詰める。
これはゴッホが生きている間には評価せず、死後になってようやく彼を持ち上げた評論家たちに対するカウンターとも受け止められる。
夏目漱石の小説「草枕」の主人公も画家だが、彼は仕切りに探偵について悪態をつく。
探偵に「屁の勘定」をされては堪らない。とこう言う。
ここにおいて、探偵とは当然評論家のことを比喩しているのであろうが、この映画の制作者も「草枕」からインスパイアされたのかな?とちょっと思ったりしました。
オチが弱いのがちと欠点だけど、ゴッホの絵画のようなヴィジュアルがもたらす不穏な雰囲気は、終盤まで物語の緊張感を持続させてくれるので、アーティスティックな作品ながら退屈さは一切ない。
どうなるのか気になって、常に前のめりになりながら鑑賞していた。
こんなヤバい映画は観たことがなかったし、今後こういう映画が生み出されるとは思えない。
狂気すら感じられるゴッホへの執着から目が離せない。
人によって合う合わないはあるだろうが、絶対に観て損はしないアニメーション界のマスターピース!
たった8年間で、素人だった彼は影響力のある芸術家に
映画「ゴッホ 最期の手紙」(ドロタ・コビエラ監督)から。
「この作品は100人以上の画家による手描きの絵による映像です」
作品冒頭のテロップが示すとおり、今までに観たことがない形式。
とても新鮮だった・・と記しておきたい。
作品は、ゴッホの死の謎解きを中心に展開されるサスペンスだけど、
油絵風の画像が、なぜか緊張感を和らげてしまった。(笑)
さてゴッホについて、多少の予備知識はあったつもりだったが、
あっ、この視点でゴッホを評価したことはなかったな、とメモをした。
「フィンセントは28歳にして初めて絵筆を手に取った」
これは、画家としては遅咲きだった、という知識があったものの
「たった8年間で、素人だった彼は影響力のある芸術家に・・信じられん」で、
そう言えばそうだよなぁ、とメモをした。
エンドロールに近いテロップで、こう文字が浮かびあがる。
「彼は8年間で800点以上描いだが、生前に売れたのは1点のみ」
「死後『近代絵画の父』と称される」と、その不思議さを再認識した。
どんなに絵が好きだったとしても、また毎日描いていたとしても、
さらに、どんな天気でも一日中絵を描いていたとしても、
絵画の世界で「印象派の巨匠」と呼ばれる存在になれるものだろうか。
私は、そちらの方が「謎」に近い。
彼を変えたのは「友人のゴーギャン」なのかな。
What this nobody has in his heart. ゴッホ好きなら観なきゃ損
ゴッホの絵はスゴい。いや、ホントにスゴいんです。実際に展示会等で作品を観ると本やネットではわからない迫力があります。初めてゴッホの作品を生で観たときには、まぁ正直圧倒されましたよね。自分の貧困なボキャブラリーでは表現できない、心を鷲掴みされる感じで。心に響いてきます。あまり好きな言い方ではないのですが、どんなにインターネットが発達しても「実際に観なきゃわからない物」が、そこにはあるんですよね。ぶっちゃげ絵画ってキャンパスに絵具を塗ってあるだけの代物なんですよ。でも、それに魅了され感動を覚える。だからアートって面白い。
そして今作品はそんなゴッホの絵を基にして、ゴッホの最期に迫っています。この映画を作ろうと考えた人は狂ってるなぁ。もちろんいい意味で。良くここまでの物作ろうと考え、それを実現させたもんです。ゴッホっぽい絵がぬるぬる動く画面は新鮮でした。話もゴッホの死の陰謀設を含ませながら、よくまとまっていたと思います。
医者の娘のマルグリット、声を聴いて「もしかして?」っと思ったらやっぱりシアーシャ・ローナンでした。声に特徴ありますよね。ちなみにエド・シーランのPV「Galway Girl」に出ている彼女はメチャメチャキュートです。医者のガシェ役はドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のブロン役のジェローム・フリン。こちらは見た目でわかったのですが、ジェローム・フリンって本当にガシェ医師の絵に似ています。
でも折角こだわってるなら全編フランス語で作って欲しかったですね。オランダ人で、南仏ではフランス語を喋っていたであろうゴッホが流暢に英語を話すと何処かしら違和感があります。
それにしても「Loving Vincent」という原題が表すようにゴッホへの愛情溢れる作品でした。油絵アニメという他では見られない手法と共に観て良かった一作です。
ゴッホの大展覧会
「世界初、全編が動く油絵で構成される珠玉のアートサスペンス映画」という触れ込みの本作だが、全編が動く油絵で構成されたアニメーションという意味では世界初の試みではない。
ロシアにアレクサンドル・ペトロフというアニメーション作家が存在する。
彼はガラス板に油絵を描いてそれを撮影して、変更部分を消してまた油絵を描くという技法で作品を発表している。
ただし描画、撮影、編集の全てを1人でこなすためおのずと膨大な時間がかかるため作品は少数で尺も短い。
第72回アカデミー賞短編アニメ賞を受賞した『老人と海』が最長の作品になるが、それでも50分である。
それ以外は『雌牛』が10分、『おかしな男の夢』が20分、『水の精 〜マーメイド〜』が10分、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーにも収録されている『春のめざめ』が28分である。
本作は96分もの長編だが、125人もの画家が分業して油絵を描いたからこそ成し遂げられた賜物だろう。
唯1人の日本人として参加した古賀陽子がゴッホの絵柄に近付けるために3週間もの研修期間を経験したようだが、やはり125名それぞれの画家の個性は如実に現れているように感じた。
日本をはじめ世界中のアニメでも各パートでアニメーターの個性が出る場合があるので、それと変わりはないのだが、ペトロフという1つの個性が炸裂させる唯一無二の完全なる世界観をひとたび経験してしまうと本作の各画家の画調の違いにどうしても目がいってしまう。
またペトロフが0から油絵の映画を制作するのに対して、本作は俳優を起用してまずは実写撮影をしてそれを油絵に直す手法を用いているので、同じ油絵という以外両者の共通項はほぼない。
とは言え本作における何層にも塗り重ねられて所々盛り上がった箇所のある油絵はまさにゴッホの筆遣いを感じさせるものである。
小林秀雄は『ゴッホの手紙』を読んで文学者の視点からゴッホを高く評価したようだが、いまだ読んでいない筆者としては彼の描いた作品から彼を眺めるしかない。
ゴッホを扱った映像作品は100作品を優に超えるらしく、監督のドロタ・コビエラと制作兼共同監督のヒュー・ウェルチマンは映像作品や資料などをできる限り渉猟し、ゴッホは本当に自殺したのかを疑う近年の議論を踏まえて本作を創り上げたようだ。
珍しいところでは黒澤明の『夢』ではマーティン・スコセッシがゴッホを演じていた。
ゴーギャンとの共同生活と諍いからの別れ、精神病院への入院、そして自殺、アルルへ移住以後オーヴェールで果てるまでの一連の流れはあまりにも有名である。
そのくせ、実際にはどのような人物とゴッホが交流があったのか実際には知らなかったので、本作ではそこも含めて興味深く鑑賞することができた。
マルグリット・ガシェ役のシアーシャ・ローナンは『ブルックリン』に主演したこともあって本作の俳優の中では一番旬だと思うが、筆者としてはライアン・ゴズリング監督作の『ロスト・リバー』でのヒロイン・ラット役で見せた純粋な少女の演技を推したい。
去年東京都美術館で開催された『ゴッホ展 めぐりゆく日本の夢』において展示されていたガシェ家の芳名録には多くの日本人の名前が記載され、戦前からゴッホ終焉の地オーヴェールに数多くの日本人が訪れていることを知った。
こちらが申し訳なくなるくらいに日本に憧れを抱き、浮世絵を模写した油絵も数多くあるゴッホを嫌いな日本人は殆どいないだろう。
2010年にも国立新美術館で『没後120年 ゴッホ展』が開催され、大規模なゴッホ展が久しぶりであったこともあり平日でも会場は込み合っていたことを良く覚えている。
さすがに本作にも登場するような有名な絵は殆ど展示されていなかったが、それでもゴッホを感じるには十分な絵が100点以上もある大規模な特別展であった。
そして本作は内容よりもやはり動く油絵に目を奪われる作品なのではないだろうか。
各所にゴッホの名画がちりばめられている。
アルル中心のカフェ・テラスを描いた『夜のカフェ・テラス』に始まり、アルル時代の『ゴッホの寝室』、アルマン・ルーランが事情聴取に足を運んだ『夜のカフェ』、パリの『タンギー爺さん』『ローヌ川の星月夜』、オーヴェール期の『医師ガシェの肖像』『鴉の群れ飛ぶ麦畑』『オヴェールの教会』などなど、殆どの場所やそれぞれの登場人物にほぼ元になるゴッホの絵が存在する。
そしてオーヴェールを離れるアルマンが車窓から眺める景色の最後では、ゴッホが敬愛したミレーの絵を模写した『種まく人』が映し出される。
本作では主役を山田孝之が日本語に吹き替えていた。
声を聞いてすぐに山田だとわかったが、それにしてもあっちこっちで引っぱりダコなその人気ぶりを今さらながら実感する。
結局真相は明かされないまま物語は幕を閉じるが、動く油絵を鑑賞した余韻が胸に残る。
美術館でゴッホの展覧会を観たのと同じような感覚に近い。
近代絵画はパパばかり
油絵と鉛筆画的手法でのアニメーション。勿論モチーフはファンゴッホであり、回想部分を白黒で描かれている。
ファンゴッホが亡くなってから、弟テオ宛の未達郵便を届けに行く郵便夫ジョゼフ・ルーランの息子が、ファンゴッホの自殺の真相を探っていくストーリー展開である。ストーリーそのものは美術史に載っている内容であり、自殺、他殺等々の諸説を上手くミステリー仕立てに織込んでいるのだが、如何せんドラマの強弱が薄く、終盤迄の展開が冗長である。なので、1時間以上は眠気を堪えるのに精一杯で、折角のゴッホの作品をストーリーに組み込んでいるのに、あまり憶えていないという失態をしてしまった。
およそ100人の画家が描いたというアニメーションは、とても挑戦的であり、そのチャレンジを称える。しかし、難しいのは絵画というその被写体を閉じ込め凝固させた芸術と、反対に自由に動かすアニメーションの融和点をなかなか見つけることが出来なかったのではないかということ。ただ、ストーリー自体は、ファンゴッホの慈愛が余すところ無く描かれ、改めて日本人のゴッホ愛みたいなものの原点を思い知らされた内容ではある。
いずれにせよ、この挑戦、そのままシリーズ化して、他の画家にも果敢に挑んで欲しいと願うばかりである。
まさに動く絵画
正直言って、絵画に対する知識はほとんどない。
ゴッホだって、名前は知っているけれど、ひまわりの絵がかつてとんでもない高値で売買されたことくらいしか知らない。
そういう「海外の素人」でも、本作は楽しむことができた。
なんと言っても、僕ですらイメージできる「ゴッホらしいタッチ」の絵が、アニメのように動くことに感動した。
ゴッホは生前まったく報われなかったということは、なんとなく知っていた。
彼の家族構成については、まったく知らない。
本作がどこまで史実に基づいているかは分からないけれど、本作では「孤独で変わり者」だけれど、弟や医師、その娘との「ささやかだけれど暖かな関係」を築いた人、という描かれ方をしていた。
ゴッホはなぜ死んだのか? 自殺の背景には何があったのか?
これらも、はたしてどこまで事実なのかは分からない。
ただ、見終わって思ったことは、ゴッホも僕らと同じ、誰かを思い、成功を願い、世界を美しいと感じていた人なのだ、ということ。
とてつもない力作だと思うし、僕のように絵画の世界に疎い人間でも楽しむことができる、普遍的なドラマだと思う。
まるで大人の知的な嗜みのような油絵アニメーション
ゴッホの死にまつわる謎に迫るミステリー。本来ならあえてアニメーションで描く必要のなさそうな題材に思えるが、当事者がゴッホであるとなれば、この映画の手法も頷ける。誰もが真っ先に目を引く、油絵を用いたアニメーション作品であるという特徴だ。しかもただ油絵でアニメ映画を作っただけの話ではない。ゴッホが描いてきた作品の世界観をそのまま作品の世界観として投影させ、まるでゴッホの描いた世界の中に入り込んだようなアニメーションになっている。
映画が始まってしばらくは、もうストーリー云々の前に一枚一枚の絵をもっとじっくり見たい衝動に駆られていた(字幕を読むのを忘れて絵に見入ってしまった)。しかも油絵であるから、絵具のタッチや立体感など、細部まで見たい部分はある。しかしアニメーションなのでシーンは次々に進んで絵も次々に変わってしまう。私なんかこの映画をスローモーションにして一枚一枚の絵を見たいくらいだった。そう考えると、普段私たちが観ているアニメーションの絵というのは、あくまでアニメーションのための絵であって、やっぱり絵画ではないのだなと改めて気づかされてしまった。その分、絵画である油絵が本来いかにアニメーションとしては不向きかということも痛感させられもした。その上で、本来不向きであるはずの油絵でのアニメーションに挑戦し、美術的に成功させたというのはやっぱり素晴らしいことだなぁと心から思った。
そしてようやく目が油絵のアニメーションにも慣れてきて、きちんとストーリーを見つめてみると(こんなことを言っては台無しかもしれないが)少々2時間サスペンス風味の様相。主人公の男が、ゴッホの弟に手紙を届けるという手前の元、ゴッホに関わった人々に出会い、彼らからゴッホの人となりを聞いていく。そしてその都度回想がめぐらされていくのだが、会う人会う人によって語るエピソードもゴッホへの印象も違い、そして死の理由も動機も経緯も違ってくる。一体何が真実なのか・・・?!というちょっとしたサスペンスドラマ調。ただそれも決して悪くはない。偉人を映画で取り上げる時に、偉人の数奇なる人生を美化しながら描く作品が多い中で、物語においても独自性と志を感じるようで好感が持てたし、内容もしっかり面白かった。アニメの登場人物としての人間ではなく、人間らしい人間たちがスクリーンに描かれていたのを感じられたのが何より良かった。
絵の迫力と世界観のユニークさ、そして死の真相を追うシリアスなストーリー含め、これは紛れもなく、大人のためのアニメーションなのだと感じた。「大人も子供も楽しめるアニメーション」はたくさんあるが、この作品はあえて子どもを寄せ付けずに、大人の嗜みとして楽しめるようなアニメーション。この映画を見るという行為が、ただそれだけでなんだか知的な遊びに思えるようだった。
とてつもなくアーテイーな作品
とてつもなくアーテイーな映画。
世界中のプロの油絵画家125人が、ゴッホの色使いや筆のタッチを真似てキャンバスに描いた、65000コマの油絵が、実際の役者の動きに乗せられて、モーションキャプチャーとしてフイルム化された作品。油絵アニメーションとでも言ったら良いのか。ゴッホの伝記を、ゴッホの絵のタッチで描いた動画ドラマ。でも役者が演技しているし、アニメのジャンルを超え、今までのモーションキャプチャーやCG技術のレベルを超えているので、何と言ったら良いのかわからないけれど、画期的な技術ということだけはわかる。
映画化するに当たって、たくさんの油絵画家が必要だとわかると、ネットを通じて5000人の応募者があった、という。選ばれた125人の画家が、それぞれゴッホになりきって65000枚の絵を描いている。もう ゴッホの「てんこもり」。ゴッホ100%の映画の中で溺れそうです。ゴッホの世界、ゴッホがいっぱいで幸せだ。
原題:「LOVING VINCENT」
イギリス ポーランド合作映画
監督:ドロタ コビエラ
ハー ウェルクマン
キャスト
ロベルト グラチェク:ヴィンセント ファン ゴッホ
ジェローム フリン :ドクター ガシェット
ダグラス ブース :息子アルマンド ロラン
クリス オダウド :郵便配達ジョセフ ロラン
サオライズ ロ―ナン:マーガレット ガシェット
アイドリアン ターナー:ボートマン
ストーリーは
ヴィンセント ファン ゴッホが亡くなって1年経った。
郵便配達のジョセフ ロランは、ヴィンセントの数少ない友人の一人で、彼のことを心から敬愛していた。肖像画のモデルを引き受けたこともある。生前ヴィンセントは頻繁に手紙を書いて、友人や家族に送り、その分返事の手紙を受け取る事も多かった。ジョセフはいつもそれを配達するのが仕事だった。ジョセフは息子のアルマンドに、ヴィンセントが弟のテオに書いた最後の手紙を託す。それはテオに手渡すことができなかった手紙だった。
ジョセフは以前、自分の耳を切り取り、封筒に入れて親しくしていた娼婦に手渡した事件をよく覚えている。芸術家の気まぐれや狂気に近い奇行にも関わらず。息子のアルマンドには、父親がどれだけヴィンセントのことを好きだったかよくわかっている。父親の気持ちを汲んで、1年前に住所がわからず配達されなかった手紙をもって、アルマンドはヴィンセント終焉の土地に向かう。
パリから30キロ、ヴィンセントは人生最後の2か月を、オーヴェル(AUVERS-SUR-OISE)で過ごした。アルマンドは ヴィンセントの最後を看取ったピエール タンガイに遭って、手紙の受け取人のテオは、ヴィンセントが亡くなって後を追うように、半年後に亡くなっていたことを知らされる。テオは梅毒を患い、鬱状態だったがヴィンセントの死後、状態が悪化して病死したのだった。パリでヴィンセントとテオは、決定的な仲たがいをして、ヴィンセントはパリを出走し、オーヴェルでドクターガシェットの世話になっていた。
ドクターガシェットは、マネ、ルノワール、セザンヌ、ピサロなどと親しくし、自分でも油絵を描く美術愛好家だった。ヴィンセントは、ドクターガシェットから家族のように扱われて、制作に励んでいた、という。
ヴィンセントの最期の手紙には、体調も良く、環境の良いところで精神状態もとても安定している旨が書かれていた。とても自殺するような状態ではない。どうしてヴィンセントは自死しなければならなかったのか。
アルマンはドクターガシェットに会いに行くが、彼は商用で出かけている。仕方なくアルマンは、かつてヴィンセントが泊っていて、やがて亡くなったその部屋に、滞在することにした。宿屋主の勧めに従って、ヴィンセントが親しかったというボートマンに会いに行く。彼は気さくな男で、ヴィンセントはドクターガシェットの娘と親しかった。きっとそれが原因でヴィンセントはドクターガシェットと衝突し、失意に陥ったのだろうと言う。しかしドクターガシェットの美しい娘マーガレットはそれを否定する。
村の人々にとってヴィンセントは厄介な存在だった。子供達は平気でヴィンセントが写生しているのを邪魔したし、夜は夜で、酒場で若者たちは村の部外者で変わり者のヴィンセントを嫌った。知恵おくれの若者は、ヴィンセントのあとを執拗について回った。アルマンは自分が村の宿屋に滞在していて、どうしてヴィンセントが死ななければならなかったのか、疑問が湧いてきて仕方がなかった。アルマンはヴィンセントを死後検死した医師に会いに行く。医師はビンセントは、腹部を銃で撃って2日間苦しんだ末、亡くなった。ドクターガシェットがなぜ、銃で撃たれた傷口から弾を摘出する手術をしなかったのか、わからないと言う。また、もし自殺したかったら人は胸か頭部を撃って死ぬ。胃を撃って自殺する人は居ない。ヴィンセントの銃創は、離れたところからしかも地面に伏せた姿勢から狙って撃たれたものだ。と医師は言う。
ヴィンセントは地元の若者達と争いの巻き込まれて撃ち殺されたのではないか。教養のない村のごろつきの様な粗雑な若者達が犯人ではないか。そのうえドクターガシェットは、ヴィンセントの傷を治療しなかった。ドクターの愛娘をヴィンセントに取られたくなかったからではないのか。最後のヴィンセントの手紙では、体調も良く制作が進んでいて快適な暮らしをしている様子が描かれている。自殺する理由がない、ではないか。
ドクターガシェットが帰って来た。ドクターは自分も一流の画家になることを夢見て生きて来た。しかしヴィンセントの才能は疑いようもなかった。自分と比べることができないほどヴィンセントの絵は素晴らしかった。自分は嫉妬に狂ってそのあまり、悔しくてヴィンセントを死に追いやるほど激しくヴィンセントを告発してしまった。いつもヴィンセントは金策に困り果てて、弟のテオに迷惑をかけている。ヴィンセントは迷惑者以外の何物でもないと言って、ヴィンセントを責めたのだった。自分がヴィンセントを自死に追いやった。死ぬべきだったのは才能のない自分だった、と言ってドクターは泣きむせぶ。
アルマンは家に帰って来る。すべてを父親のジョセフに伝える。配達されなかった手紙はドクターガシェットを通じてテオの未亡人に手渡された。しばらくしてテオの妻からお礼の手紙が届く。そこには「愛するヴィンセント」(LOVING VINCENT)と書かれていた。
というお話。
ヴィンセント ゴッホは近代絵画の父と呼ばれ、28歳から36歳で死ぬまでの8年間に800点の作品を残した。生きていた時には才能を評価されることなく、たった1枚の絵が売れただけだった。セザンヌ、ゴーギャン、スーラ、ゴッホの4人はポスト印象派と呼ばれている。オランダ生まれのゴッホの多くの作品は、アムステルダムのファン ゴッホ美術館に展示されている。1800年開館という歴史的なアムステルダム国立美術館(ライクスミュージアム)のとなりに建っていて、対照的に近代的建築を誇る。1973年開設で、別館は黒川紀章が設計し1999年に開館した。本館にはゴッホの200点の油絵、500点の素描、700点の書簡、それとゴッホとテオが収集した500点の浮世絵が収蔵されている。
油絵で特に有名なものは、「ジャガイモを食べる人々」1885年、「パイプをくわえた自画像」1886年、「黄色い家」1888年、「星月夜」1889年、「ひまわり」1889年、「ひまわりを描くファンゴッホ」1888年などなど。
印象画家展が何年か前にキャンベラの国立美術館で開催されたとき、真夜中3時間運転して娘と展覧会を見に行ったことがある。予想にたがわずゴッホの「星月夜」は、それはそれは美しい絵で、「一生に一度は見なきゃだめだよカテゴリー」に入る絵だった。どうやったらこれだけいくつも絵具を重ねて塗って、美しい「紺青」の空と光る星を描けるのか、触って確かめたい誘惑にかられる。「じゃがいもを食べる人々」も、働く農夫たちを描いた絵も好きだ。でも、ニューサウスウェルス州立美術館にある「ペザント」(農夫)の絵が一番好きだ。暗い色調、男のひしゃげた鼻、暗い瞳、しかし力強い生命力に圧倒される。
この映画を観て「あ、やっぱりゴッホは自殺じゃなかったんだ。」と解釈した。彼を理解しようとしない人々の無理解が彼を殺した。狂人のレッテルを貼りたがる村人達、ゴシップ好きな女たち、嫉妬に狂う芸術家たち、変人を排除しようとするコミュニテイー、不寛容な社会、みんなが殺人者だ。
芸術家は、多くがその前衛性によって、人々から理解も受容もされずに薄幸な人生を送る。それが哀しい。ショパンのピアノ曲を聴くといつも泣きたくなる。モーツアルトの明るい空を突きぬけるような快い響きを耳にすると、いつもそれを作曲していたころ空腹と寒さと死の恐怖に苛まれながら作曲していた彼を思って泣きたくなる。
ゴッホの絵もそうだ。残された手紙の数々は、食べていくため、画材を買う為にお金を無心する手紙ばかりだ。
どうしてわたしたちは芸術に、これほど不寛容なのだろう。過去だけでなく今もまた、どうしてわたしたちは新しい芸術の創出に、これほどにも不寛容なのだろう。
ゴッホの描いた絵が、彼を語る
ゴッホの絵が彼のタッチで動くというのが、思った以上に感動でした。ミステリであり、絵として美しく、耳を切り落とすような狂人なのに、彼に共感せずにはいられない。面白かった。思っていたよりずっと、面白かった。
奇跡を目撃する
人生ナンバーワン映像体験に思える。油絵のアニメーションを実現させたスタッフ、スポンサーは素晴らしい。
過去の場面をモノクロ水彩で描いている点や、冒頭のスタッフクレジットから油絵のアニメーションで描くことで世界初の手法による世界の可能な限りの順応を導く。作中で描かれる物語上の愛は当然あるが、この企画の愛は隅々で垣間見れる。
背景とキャラクターが一枚に描き続けられることでキャラクターの動きの残像が背景に見えるところが味わい深い。動きは役者の演技をトレースしているわけだが、物語に入り込むためと画家の労力や一貫性のため有効だったと思う。
ゴッホについて知らなかった。ヴィンセント・ファンゴッホの人柄が彼の手紙によって紐解かれる。間違いなく我儘な性格の彼の周囲に人がいる理由に考えさせられる。
今後ゴッホの絵を見た時に動きを感じるに違いない。
とてもよかった
もしかしたら油絵で背景から一枚絵で全部描いて修正しながら動かしているのではないかと思う場面があり、疑念を抱きながら見た。確実に合成しているとわかるところがあると、むしろ安心する。ラストシーンは星月夜が豪快に光の奔流になるのだろうと予想していたが、非常に控え目だった。
回想シーンはモノクロで写実タッチだった。
絵にこだわったアニメでは『かぐや姫の物語』が記憶に新しいが、話がとてもつまらなくてがっかりした。こちらは油絵でアニメを作るという発想が狂気の沙汰だ。アクリル画でもいいと思うがちゃんと油なのだろうか。
ミステリーの構成で、才能と嫉妬の悲劇が描かれており面白かった。ただ、主人公が誰なのか最初に把握しそこねてずっと誰だかよく分からなかった。大してゴッホにゆかりのない人だった。ゴッホをきちんと主人公に据えた話で見てみたい。
良い
ゴッホの生涯についてはほとんど何も知らなかったので、一度見ただけでは、理解できないのではないかと不安だったが、そんなことはなかった。
結局、ゴッホが自殺だったのか、別の原因だったのか、その点は明確にはならなかったが、それ以上に、ゴッホの生き方とか人間関係とかが色濃く描かれていて、死の原因についての興味は薄められた気がした。却ってそれが良かったように思う。
全編が油絵で描かれているが、回想シーンとは絵の描かれ方が違うので、分かりやすかった。
改めてゴッホを知れる映画
ゴッホタッチの
アニメーションミステリー映画
ざっくりとしたストーリーは、
ゴッホが自殺前に書いた弟宛の
最期の手紙を郵便局員である
父に頼まれて主人公が届けるお話。
テオに手紙を届けようとするものの
テオもすでに自殺していた…
誰かに手紙を託すべく
ゴッホが死前過ごしていた街に向かい
彼の主治医を会いにいく。
その街でゴッホと関わった人々を通して
彼の死の真相に迫っていく。
ゴッホの人生を改めて知れるのが、
この映画の魅力だと思う。
ゴッホは28才で画家になり
弟のテオの支援をうけながら
創作活動をしていた。
そして37才の若さで
この世を去ることになる…。
自殺で…。
今でこそその名を知らない人はいない程
歴史に残る画家だが、
当時は1枚しか絵が売れなかった。
鬱病で孤独な人だと思っていたが、
彼は愛にあふれていた事を知った。
弟の息子をかわいがっていたし
弟にも毎日手紙を書いていた。
そして、きっと
主治医の娘と恋仲だった…。
意外だったのが几帳面だったという事。
公務員のように決められた時間
毎日絵を描いたらしい。
芸術家特有の産み出す苦悩と戦って
病んでいたと思っていたが、
彼の作品を見ていると
精神世界からあふれでたパッションを、
絵にぶつけているような気がする。
2時間で描きあげるらしいので、
溢れんばかりの表現したい事が
あったように思える。
実際にゴッホの絵を見た事があるが、
強い魂がそのにあり
吸い込まれていくような気がするのだ。
才能に年歴は関係ないのだな…
そして経験年数も。
ゴッホ作品の肖像画に命が吹きまれ、しゃべり始める
おおっ、ゴッホの油絵が動く!デジタル・ペイントツールの進化がもたらした新しいアートである。
"油絵風アニメーション"とでも呼ぶべきか。125名の画家が描いた"ゴッホタッチの油彩画"は実に62,450枚。それを1秒に12枚ずつ取り込んでアニメ化している。
俳優が演じた実写映像を下絵としているので、身も蓋もない言い方をすれば、プログラミングで自動化することが可能だったりもする。しかし、そんな描画ニーズがそうそうあるわけでもないので、やはりその発想の斬新さと、気の遠くなるような作業は驚異的である。
絵画に詳しくなくとも、作品「ひまわり」くらいは知っている。本アニメは、37歳という若さで自殺した印象派の巨匠フィンセント・ファン・ゴッホの、死の謎に迫るサスペンスドラマである。
ゴッホの死は、"自殺"とされているが、"本当に自殺だったのか"や、"その理由は何か"など説明がつかない謎が多くある。一方で、死の直前までゴッホに関わっていた人物たちは多く、その証言や回想、書簡などを集めたものが出版されているくらいだ。
なので映画は、複数ある死因の説のうち、有力なひとつを結論として位置づけ、それを映画の主人公が突き止めていく恰好になっている。面白いアイデアである。
ゴッホの作品は、わずか10年の活動期間の間に、デッサンやスケッチまで含めて2,100枚以上もあり、それらの中には「アルマン・ルーラン」、「マルグリット・ガシェ」、「タンギー爺さん」など晩年のゴッホと付き合っていた関係者の肖像画が多い。ファンなら、よく知っている絵画に命が吹き込まれたかのごとく、その肖像画が動き、しゃべり始めるのがミソだ。
ゴッホ初心者だったとしても、この映画によって紹介される登場人物が、ゴッホ作品の肖像画になっているので、作品の名前も覚えるし、親しみも湧く。
ちなみにファン・ゴッホ美術館との共同展覧会「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」が上野にある東京都美術館で開催中。TOHOシネマズ上野も、ちょうどグランドオープンしたばかりなので、本作と合わせて楽しむのも一興である。
(2017/11/5 /TOHOシネマズ上野/ビスタ+スタンダード/字幕:松浦美奈)
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