劇場公開日 2017年11月3日

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「壮絶な手間をかけて綴られたゴッホの死を巡る推理サスペンス」ゴッホ 最期の手紙 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0壮絶な手間をかけて綴られたゴッホの死を巡る推理サスペンス

2019年5月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ゴッホが弟テオに宛てた最後の手紙は宛先不明で郵便配達人ジョゼフの元に戻ってくる。ジョゼフにその手紙を託された息子のアルランはパリに赴くが・・・。先のエピソード以外は何も予備知識がなかったので勝手にゴッホの半生をなぞった実録ドラマと思い込んでいましたが、そんな話ではなくてアルランがゴッホを知る人達に片っ端から会ってゴッホの死の真相に迫る推理サスペンス。もうひとつ勘違いしていたのはセル画の代わりに油画を使ったアニメだと思っていたこと。考えてみれば100分近い尺に対して油画約6万5000枚はむしろ少ないわけでそこはモーフィングその他の技法を駆使して仕上げられている。ただそれでもその手間たるや壮絶で、実写で一旦撮影した映像をいちいち油画に置き換えている様子。ということで冒頭の数分はその超絶技巧に目を奪われてしまうわけですが、なんとなく製作工程が把握出来てからはその技法は目立たなくなり、自然とドラマに集中出来ました。先にこの秋公開予定の『永遠の門 ゴッホの見た未来』を観ていたのでストーリーも追いやすかったです。推理サスペンスなので横溝正史原作の角川映画でも観ているかのような禍々しさを纏っているわけですが、様々な証言を経てアルランが辿り着いた推理は突き抜けて鮮やかな色彩に満ちていて、本作の技法が正鵠を得ていたことが明確に示され爽快です。

全編どこまでも美しいゴッホの諸作に対するオマージュに満ちていて眼福以外の何物でもない作品ですが、そんな無数の油画の中で一際美しく描かれているのが医師ガシェの娘マルグリットを演じたシアーシャ・ローナン。油画に置き換えられているのに彼女と解る瑞々しい美しさに思わず息を呑みました。

よね