「ゴッホ作品の肖像画に命が吹きまれ、しゃべり始める」ゴッホ 最期の手紙 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ゴッホ作品の肖像画に命が吹きまれ、しゃべり始める
おおっ、ゴッホの油絵が動く!デジタル・ペイントツールの進化がもたらした新しいアートである。
"油絵風アニメーション"とでも呼ぶべきか。125名の画家が描いた"ゴッホタッチの油彩画"は実に62,450枚。それを1秒に12枚ずつ取り込んでアニメ化している。
俳優が演じた実写映像を下絵としているので、身も蓋もない言い方をすれば、プログラミングで自動化することが可能だったりもする。しかし、そんな描画ニーズがそうそうあるわけでもないので、やはりその発想の斬新さと、気の遠くなるような作業は驚異的である。
絵画に詳しくなくとも、作品「ひまわり」くらいは知っている。本アニメは、37歳という若さで自殺した印象派の巨匠フィンセント・ファン・ゴッホの、死の謎に迫るサスペンスドラマである。
ゴッホの死は、"自殺"とされているが、"本当に自殺だったのか"や、"その理由は何か"など説明がつかない謎が多くある。一方で、死の直前までゴッホに関わっていた人物たちは多く、その証言や回想、書簡などを集めたものが出版されているくらいだ。
なので映画は、複数ある死因の説のうち、有力なひとつを結論として位置づけ、それを映画の主人公が突き止めていく恰好になっている。面白いアイデアである。
ゴッホの作品は、わずか10年の活動期間の間に、デッサンやスケッチまで含めて2,100枚以上もあり、それらの中には「アルマン・ルーラン」、「マルグリット・ガシェ」、「タンギー爺さん」など晩年のゴッホと付き合っていた関係者の肖像画が多い。ファンなら、よく知っている絵画に命が吹き込まれたかのごとく、その肖像画が動き、しゃべり始めるのがミソだ。
ゴッホ初心者だったとしても、この映画によって紹介される登場人物が、ゴッホ作品の肖像画になっているので、作品の名前も覚えるし、親しみも湧く。
ちなみにファン・ゴッホ美術館との共同展覧会「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」が上野にある東京都美術館で開催中。TOHOシネマズ上野も、ちょうどグランドオープンしたばかりなので、本作と合わせて楽しむのも一興である。
(2017/11/5 /TOHOシネマズ上野/ビスタ+スタンダード/字幕:松浦美奈)