「限定空間での繰り広げられる想いと束縛。」リズと青い鳥 ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)
限定空間での繰り広げられる想いと束縛。
数ある京都アニメーション作品としても、映画としてもとても好きな一編。
テレビアニメ『響けユーフォニアム』の番外編的位置付けのほぼ独立した作品だが、個人に京都アニメーションの若手山田尚子監督が有能なスタッフたちと特に感性と才能を最大限発揮した作品。
絵本の世界感から現実世界に移る冒頭の登校場面から、ただ歩いて友人を待つだけなのに、惚れ惚れする様な描写と音楽で奏でられる心地良い進行で、タイトルが出るまでで主役である鎧塚みぞれと傘木希美の関係性と性格を観客に伝える巧みな導入部に魅入られてしまう。
物語は、みぞれと希美の片想いの愛情にも近い関係をベースに、演奏科目である「リズと青い鳥」の絵本世界を交差させてゆく。
正直な話し、2期目のテレビシリーズにも登場している本作二人のキャラクターだが、実はあまり印象がなく映画に感心してから、2期を見直して確認した次第だが、物語の視点が変わるとこれほど良い意味で違いが出るのかと改めて思う。
アニメーションの人物表現は、俳優が演じる実写と違い、演出と作画と声の演技が融合してゆくものなので、細かくて微妙なニュアンス的な表情や動作を見せるのには、不利な面が多々有るが、逆にどんな描写も制約のない絵で表情することが、可能で作り手のイマジネーション次第の側面もあり、この作品はとてもタイトだか美しく豊潤である。
アニメキャラの記号的表現の一つに、照れると顔か赤くなる描写があるが、この作品でも最初の僅かなカットにみぞれが頬を染める場面が、控えめにあり、恋愛感情の様なミスリードを誘っている。
キャラクターデザインについて
テレビシリーズの『響けユーフォニアム』でのキャラクターデザインを担当した池田晶子に代わり、「聲の形』で山田監督と組んだ西屋太志が担当したこの映画用のキャラクターデザインは、いわゆる肉感的で可愛いらしい今時女子高生なデザインの池田晶子より、少女漫画的繊細さと制服の丈の長さや、一部カットにある特徴的な伸びた首筋など、ニーム感もありテレビ版とは違うの独特の雰囲気や表現を際立たせている。
背景や彩色について
季節は夏に限定されているが、主な舞台である学校の場面は、青い鳥や夏服の色である青で彩色設定が統一されており、季節に関わらずクール印象で作品全体の落ち着いたトーンを作品に与えている。
声の演技について
最初に鑑賞した時に、主役二人の声の演技も通常のアニメ作品より抑揚を抑えており、静かな作品世界に合わせてトーンを変えていると感じる。
2期目のテレビシリーズにも登場しているキャラクターだが、実はあまり印象がなく映画の後に見直しで確認した次第だが、希美役の東山奈央は、多くのアニメ作品で、演じている明るいトーンでの活発な女性キャラなどの延長線にある役だか、多くの近しい友人で、同格だと思っていたみぞれの才能に複雑な感情や焦りを抱く希美を、巧みに表現している。
個人的に発見だったのは、人見知りで無口だが、徐々変わってゆく主人公みぞれ役を種崎敦美が、静かで抑制をきかせた演技で見事に演じていて、普段のややハスキーな声から分からない声質に変えていて驚く。
2014年のテレビアニメ『大図書館の羊飼い』でのハスキーボイスで小悪魔的な立ち振る舞いが印象的だった小太刀凪の声の人と配役を見てから気付いたくらいだった。
専業の声優の演技の多くは、正確な発音を台詞に沿って演技することが、多くの場合に求められると思うが、そこにある種の媚びやあざとさを持ち込んで、ウンザリする作品もあるが、この映画に関しては、抑えられており、それが音響監督の指示だとしても、多くの作品にある分かりやすい萌や媚び演技は、そろそろ一考した方がいいのではと思う。(それ求める一定のアニメファンいるのも判るが個人的見解です)
童話の世界について
劇中の童話「リズと青い鳥」の描写や世界観は、絵本を思い起こすカラフルな美しさだが、抑えられており本編の淡い色と統一されており、主な舞台である学校の場面と並べても違和感なく観れる。
そして動きの少ない学校本編とは、違い欧州を連想するの街の様子や月夜の静けさと一転した嵐の夜の風と木が荒れ狂う描写とリズと青い鳥の娘が、生活描写の中に動きを取り入れてあり、特に小さな丘の斜面で戯れる浮遊感に満ちて描写などは、ジブリなどに見られるものに近く京都アニメーション陣の技術と演出の確かさが判るところだと思う。
キャラクターの配置と物語について
テレビシリーズから一新されたキャラクターがありの本編とは違い鎧塚みぞれの視線で描かれる部分が多くて、本編でお馴染みの葉月や緑輝達がみぞれ視点だと関心が薄くて見切れていたりするのは、苦笑だが、彼女の心境を炙り出している演出だと思う。
その辺はみぞれの親友との想いとは裏腹の無意識無関心な距離感がある希望の心境とも重なる。
暗い話にややもするとなりそうなだか、希望とみぞれと同じ三年生で吹奏楽部の部長と副部長コンビであるデカリボンの吉川 優子と中川 夏紀のやり取りや、みぞれを慕う同じオーボエの一年生剣崎 梨々花のちょっとまったりとした雰囲気がみぞれに心境の変化を与えて和ませてくれるので、全編を通して明るい。
本編の主役である二人の久美子や麗奈も完全に脇に廻っているが、所々に重要ポイントや影響を与えているストーリーラインと脚本は、近年の質的な充実が驚異的でもある吉田玲子。
初期はテレビアニメ界がメインで活躍していた人だが、テレビ出身の脚本家が映画を担当すると、今一つな作品が多い中、良作を多数手掛けており、実写作品『のぼる小野寺さん』は、まだ未見だが信頼できる見巧者達からの評価が高いので楽しみにしている。
余談だがテレビと映画には、視聴環境や制作方針フォーマットの違い以外に個人的に思うのだか、テレビの名脚本家が中々映画で結果を出せないのには、何か特有のものがあるのか?
監督の山田尚子は、これまで3本の劇場用映画を監督していて、どの作品も明らかに高い出来栄えの水準で、標準的な出来の映画『けいおん』以外では、テレビシリーズの扱いが中途半端で報われない少年モチゾーに焦点を当てて作品世界を完結させた良作『たまこラブストーリー』と個人的に引っかかるところあるが傑作『聲の形』と女性としては、多くの良作アニメーション映画を監督している。
女性らしい繊細な演出と書くと近年では問題あるかもしれないですが、特徴的な画面演出で足元をアップにして各キャラクターの性格を見せる描写は、多くの作品に共通する特徴で、作品順に鑑賞すると変化や思考錯誤が分かり今作では、音楽の融合も良くて最も洗練されたカタチで使われている。
アメリカの名匠ジョージ・スティーヴンス監督は、第二次世界大戦で陸軍映画班として多くの戦場や強制収容施設を映像に記録してから作風が変化したとの指摘もあり、悲しい出来事を受けてからの山田監督の変化については、次作品を期待していると同時に、受けてしまった影響に言葉が上手く出ません。
願わくば、悲しい出来事で亡くなったスタッフの方々への想いも含めて語り継ぎ、まだ書込みたい部分もある本作なので、思いついたら追加していきたいと思うほどにお気に入りです。