「濃密に感じられる校舎の匂い」リズと青い鳥 P CATさんの映画レビュー(感想・評価)
濃密に感じられる校舎の匂い
王道熱血ストーリーで人気を博したユーフォシリーズのスピンオフ作。本編とはキャラデも雰囲気も打って変わって、静かで抒情的な物語が織り上げられています。
●ストーリー
この映画は青春の一風景を切り取っただけの映画であり、いわゆる物語に求められるようなスリリングな展開はありません。本当に学生生活の一幕を切り取り、余計な味付けをせず、そのままに投影した映画です。その上描写されている範囲は非常に狭く、基本的にはみぞれと希美の2人にしかスポットは当たりません。
にもかかわらず、この映画はまさに名作。
本作はコンクールで演奏する童話原作の楽曲『リズと青い鳥』を軸として、進路選択が迫る高3の夏を舞台にみぞれと希美の関係性を描いた作品です。童話に登場するリズと青い鳥の関係性をみぞれと希美に絡ませつつ、二人の交錯しそうでしないもどかしい距離感の変化を辿る。それ以上のスペクタクルはありません。しかし、この悪くいってしまえば起伏の無い話を丁寧に描き、映画として成立させたスタッフに万雷の拍手を送りたい出来栄え。
●演出
この映画は暗喩的なシーン抜きには語れないものです。まだまだ全然拾い切れていないうえ、解釈が分かれる箇所も多そうですが、例えば冒頭、みぞれが希美の足音を認識した瞬間、雑草の中に咲く花が映されるシーン。希美を花に例え、みぞれにとって彼女以外はすべて「雑草」のようなものであるという認識を提示しています。
希美=花という構図は中盤でも登場し、例えば音大いくのやめよっかなーと希美が吐露するシーンでは、背景にウロボロスのように絡まった花が描かれています。
みぞれに対し含むところがあれど、自分からはアクションを取れない希美の自家撞着的な心情を示しているとも取れます。
1回といわず2回、3回とみて、こういったシーンから心情を読み取ってゆくのも楽しい映画です。
また何かを暗示したシーンでなくとも、台詞がなく、BGMに合わせて場面がリズミカル展開してゆく箇所がいくつもあり、独特の綴り方に冒頭から一気に引き込まれます。
●音楽
音楽が題材なだけあり、音楽抜きではやっぱり語れないこの映画。
冒頭からいきなりリズと青い鳥の一部が流れますが、このメロディーはいわば映画の主題として繰り返し提示されます。
その他にもBGMが動きとマッチしながら展開するミュージカルめいたい部分もあり、音なしでは成立しない映画といえるでしょう。
細かな環境音も含めて全体に静かなので、できれば人がいない静かな映画館で観たいものです。
あとEDのSongbirdsが名曲。ちょっと日本語英語なのが気になるけど、いやそんなことはいいんだ。映画の雰囲気によく合った爽やかな旋律で最後を綺麗に締めくくっています。
●絵
童話『リズと青い鳥』はパステル調で描かれ、本編(?)もやや淡めの色彩で色づけられている感じです。瞬きする間に通り過ぎてしまう青春の儚さを感じさせる秀逸な色使い。
あと個人的にキャラデはアニメ!という感じの色を抑えた(特に目元)本作の方が好きです。
●総評
全体を通じて雰囲気の描写が素晴らしく秀逸。スクリーン越しに学校という場所の気配が濃密に迫ってくるような感覚。
放課後の廊下、人がいない冷めた音楽室、そういった記憶が自然に呼び起こされ、自分が送ってきた高校時代の記憶までも掘り起こされ、何とも表現できない感慨が残る作品でした。
言葉では言い表しきれない、名前を付ければ大事な物がこぼれてしまいそうな、そんな淡い感情をこそ大事にしてみたい。