「音と映像が繋がる気持ちよさと、繋がりが生み出す作品独自のテンポ感。」ベイビー・ドライバー すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
音と映像が繋がる気持ちよさと、繋がりが生み出す作品独自のテンポ感。
視聴2回目。
○作品全体
物語の軸となるのは依存と補完。いずれも人や物に対しての関係性を描くことによって説得力が生まれるため、濃厚に積み重ねていくのが常だが、この作品では音楽と映像が依存と補完の関係性をテンポよく、軽快に映しているのが良い。
依存に関して言えばキャラクターの相関図はどれも依存が絡む。ドクとベイビーは一見すると借金の返済というビジネス上の関係だが、ドクはベイビーを「お守り」として仕事に使っており、ベイビーに依存していると言える。そのことをベイビーも分かっているような台詞があるが、終盤でドクに助けを頼むのはその関係性を上手く利用しているようにも見えて、「ベイビー」からの脱却とも見えた。ドクとベイビーの関係性は必要最低限の会話で作られていて、それがまた作品のテンポ感を生み出しているように感じた。
他のキャラクターで言えば、バディとダーリンの関係もまさしく依存だろう。依存の関係を断たれたバディが最後の敵として残るのも面白くて、依存とは違う男女関係にあるベイビーとデボラの関係とも対比された終盤のシーンだった。
補完について言えば、例えば音合わせによる音楽とキャラクターの動き。いずれも片方だけではどれだけ良くてもその枠内でしか表現できないが、互いが互いのアクセントになることによって見過ごしてしまう部分も魅力として補完される。乱発される銃声の一つ一つにも注目したくなるような音合わせは、映像の隙にも意味を詰め込んでくれるアイデアで、作品の面白みが深くなる一方で軽快さも生み出していた。
○カメラワークとか
・ベイビーがピザ屋でドライバーになるまでを横PANでワンカットぽくつなげているのが面白かった。働くまでの面接であるとかピザ屋でのやりとりは一切省いて配達に出向くベイビーまで一気に見せる。
・同ポジ。ヘマをした仕事仲間をスクラップ工場へ持っていくところや終盤の刑務所内のベイビーとかは同ポジを使っていた。これも前後のカットの意味合いを補完する演出と言えるか。
○その他
・iPodの使い方に愛を感じる。当時としては大容量のストレージを持っていたiPodクラシックを複数持つという意味、フリック音、早回し時の独特な音の飛び方。
・カーチェイスシーンのバックモニターの使い方が面白い。カメラが置かれている場所、映しているもの(ガイド線も含めて)は日常的に見るものだが、それがより一層非日常性を強調するような。
エドガー・ライト作品はテーマ性を求めるのはなんとなく違うとは思うんだけど、そう思った時点で自分に刺さる映画とはならないような気がしてしまう。スタッフ名を見てカテゴライズするのは当然だけど少しもったいないことをしているのかなと思ったり。
ただエドガー・ライトの音へのこだわりは猛烈に好きだ。単純に挿入歌を流しているだけの映画とは絶対に違う、音と映像が繋がる気持ちよさがエドガー・ライト作品にはある。